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vol.35

「シャガールの傑作版画展」(美術館「えき」KYOTO)

京に芸術の秋の訪れを告げるべく、9/1〜24まで開催されていた
「シャガール傑作版画展」(美術館「えき」KYOTO)。
主催者みずからが「傑作」と付けるセンスが泣かせる。

ミロ、セザンヌ、ユトリロなどと並んで、日本で特に人気の高いシャガール。
牧歌的な描写、優しげで穏やかな登場人物や動物たち、鮮やかな色調が、
一種の「大人の絵本」として、現代人の疲れ切った(と自分で思いこんでいる)
心を癒すのだろう。

男も女も子供も馬も花も、みんな画面一杯に浮遊する、その作風は、
発表当初から好んで精神分析学の対象として扱われ、その方面の研究書も数多いが、
ご当人にはどこ吹く風、激動の時代を感じさせない軽やかな歩み。
ギリシア神話や聖書の物語に取材する作品でさえ、
ほのかなユーモアが漂う。

純粋な「天衣無縫」などあり得ないと思う。
この大地に立ち、この空気を吸って生きている限り、彼とても、
汚辱と愚行にまみれた人類史の生き証人であるし、
その歴史の一部を成している筈だ。

にもかかわらず、生み出す作品がかくも無垢なのが却って空恐ろしい。
彼の精神のフィルターに濾しとられた残滓の思いを致す時、
彼が表現「しなかった」(或いは「出来なかった」)ものの壮絶さに
慄然とする。
それに比べて、「ゲルニカ」を嘔吐したピカソは、さぞかし
スッキリしたことだろう。

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