Arts Calendar/Art's Report site/《KOGURE Journal》626


vol.626.
7/28(木)


少し日が昇ってから階段を下りる。
階段の直線的な影が、夏の朝日によって、そのままコンクリートにくっきり刻印されている。そこに、なぜか、煙のような儚い草木の影が、立ち上る構図。どうして、こうも焦点がぼやけてこの地面に映っているのか、どうしてもわからない。実像があまりにも平凡な庭木なので、かえってその影のぼやけ方が尋常でないことが心を騒がせる。どうしても、デジカメを取りに戻りたい衝動を押させて。だめだめ、立命館大の試験監督に遅れてしまうから。

めずらしく、わがマンションでは、冷房を一度もつけていない。芳江さんは日中、電気代を考えて去年までもつけないでやってきていたらしいが、ぼくが帰ると即座につけてもらっていた。夜も去年まではつけたまま寝ていた。それが、一転して、どうしたことだろう。年の功?熱量がなくなっちまった?
たぶん、どうも今年はまだ風がよく通るからなのだろうと思う。昨夜から今朝にかけてもまた、快適な目覚め。立命館についても、夏の空っていう透明な色が、自分的には爽やかな限り。

試験監督から無事、解放されて、蹴上駅から、まずギャラリーすずき。加須屋明子企画(イメージの新様相ィ」)、Companion Species Manifesto。山吉ちえのビデオは仲間(コンパニオン)としての2匹の犬、わんちゃんのビデオとインスタレーション。ふつうぽい(紹介ビデオのようなもの)ものもあるし、わんちゃんのお尻の穴から覗くと、ぺろぺろ雑念なく水を飲むわんちゃんが映るものもあった。

いちばん、気持ちいいのは、この夏にぴったりの金魚が泳ぐ水槽に、なぜか、ぴよ〜ん、ぴよ〜んと音たてて飛び上がるわんちゃんである。その、無意味さがおかしくってつい声を出して笑ってしまった。なんにも考えないですむ現代美術をめざしているようにも思えるが、一応、フェミニズムとか寛容と和解とかとの関連での解説もあって、そういうこともまったく念頭から抜けたわけでもないが、軽さが特徴な作風のように思った。

軽さという意味では、ちょっと松山賢の絵画やインスタレーションの方には分がない。それよりも、薄さが際立ち、その薄さというのは、日本が世界で一番薄いのかも知れないと思わせるぐらいに、その着ぐるみのような動物もヌードな手足に過剰にレースされていうる女の子も、つるつる地表を滑っているスケーターも、表面はどんな素材であっても何もかも同じく、薄いのである。
そやつは、毛皮を着たレッサーパンダなのかモモンガなのかムササビなのか知らないけれど、実にふわふわっとしていて、でも表面しかなくて薄いので、その反語性にいたく滑らかに感動する。

おっと、一つだけ、薄さだけではすませないコーナーがあった。そこには、小さな骨の立体そのものが置かれていたのだ。人工に作られた薄さというものの正体をいつでも無効に出来る意思を伴って、世界を静かに見つめているかのように見える小動物の頭蓋骨。あるいは、それを少しだけ加工したと思われるインスタレーションがあった。

ペットとか着ぐるみとかぬいぐるみとかが、ロリコンな女の子の図像以上にエッチに見えるには、夏の日差しにぼくがやられたのかも知れないと思いつつ、アートスペース虹へと道を横断する。

こちらは、爽やかな木々の世界である。
適度な水分と心地よい蒸発のための風=空気の流れ、熱の放散。

朝の散歩のときに目を留めて、夕方、紅茶を飲んだあとに、ふと絵筆を持って気がつくと作品になってしまったかのようなリズムが聞こえてしまう(もちろん、そんなお芝居じみた話ではないとしても)。
それはまた、平板な紹介になってしまうが、まっとうな、ふつうの風景画ということも出来てしまうかも知れない。つまり、結局、児玉靖枝という美術家の方の過去の作風がずいぶん違っていたはずだということを思い出すことなどまったく必要がないほど、気持ちのいいairが、ここには流れている。

松山賢の絵画はキャンバスの側面まできちんと模様が描きこまれていたのに対して、児玉靖枝の側面は水彩絵の具のように自然と植物に含まれている水蒸気が光の色をともなって流れ出してしまったかのような、無造作なあとを見せている。

このあと、アートスペース虹は、8月は22日までお休み。お休み前に、避暑地の涼しさを味わえて幸せにさせてくれる展示だった。地震もテロもサリンも被爆も何もかもすでに知り尽くしたあとの静けさというか、あるいは、逆にそういう悲劇と無関係にこの世界はあっていたとしてもいいような瞬間はまだ残っているという信念であるかのような、平穏さ。

ギャラリーはねうさぎでは、若い人たちの個展。マンホールを陶器にしている人と平面の人と。


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