Arts Calendar/Art's Report site/《KOGURE Journal》BIWA HOSHI-YAMASIKA YOSHIYUKI
久しぶりの黒谷さん(金戒光明寺)、永運院(P.A.N.事務局の土肥さんが住職)。近くで読経が流れ、鐘の音。座敷にはいると大きな蟻が畳にはい上がって、明かりの中をうろうろしている。いつ来ても静かな場所だ。もうすぐサツキが咲くお庭。
今日は、大亦康雄さんが映画「琵琶法師 山鹿(やましか)良之」を観たいと思って会を作り世話人として場内を設定している。昨日は、大阪府立文化情報センター「さいかくホール」で2回上映、今日もマチネとしてすでにここで1回上映している。
18:40〜21:14。《最後の琵琶法師と言われた山鹿良之(1901〜1996)生誕百年に寄せて》〜「琵琶弾きは見かけじゃなか。芸をみがけ。」
まず、長編記録映画『琵琶法師 山鹿(やましか)良之』を観る。16mmカラー、80分、1992年オフィスケイエス作品。監督=青池憲司。
当時、91歳だった山鹿良之。左目が光を少し感じられるだけの状態。仲の良かった妻はもう施設に収容されている(ふたりが裸で並んで寝ころび撮られた写真はかわいくてたまらない)。
メインは小栗判官全7段のさわり。ナレーションが入り、宮内庁にあるらしい絵巻物が示されて、物語を余り知らない人にも理解できやすい工夫がある。ナレーションは少し耳障り。字幕をもっと使う手もあるのじゃないかなとも思う。
なにせ、山鹿良之の声が圧倒的に張りがあり艶があり、それとどうしても比較してしまうからだ。
そうは言ってもこの小栗判官は、山鹿の八千代座でのコミカルな前説(聴衆をひきつけるのも重要な芸だ)からはじまり、お宮の夜ごもり、お祖母さんたちの前での語り、旧家の座敷での語りへと移っていく。彼の食事風景などを挿入しながら。そして、最後の感動的なシーン、木馬座での晴れ姿へといく。これは、その長い語りに見合うすばらしい編集だ。
その前に、遊行寺(藤沢だったか)にある小栗判官と照手姫らの墓の前での琵琶の伴奏による読経がある。お経が琵琶で奏でられるという姿を初めて観て、ぞくぞくっとする。中世の空気がやってきたかのようだからである。
この山鹿良之は、一人になっても自分で全部身の回りのことをするのだという。天台宗の僧侶でもあるので、朝の勤行がある。蝋燭に火を灯すこと、ご飯を炊飯器からよそること、もう左手は痺れて利かないからとても大変なのに、手助けを頑として断る。
弟子入りしたあとの対談で越前琵琶の片山旭星が語るところによると、変に手助けするとえらいことになるという。怒ってしまってどうしようもなくなるのだ。山鹿良之は、自分を厳しく律する「規(のり)」を持っていて、それを犯すのはとてもいやがるのだが、部類のお酒好きで甘えるときはとても甘えるので、そこが分かるとびくびくしている必要がなくなったということである。
片山旭星に「小野小町」かなにかを教えるシーンもあった。柳川へ昔のなじみを訪ねるシーンもいい感じだったし、ヘルパーが来ても食事をさせないというエピソードや生活の一こま一こまが、すべて彼の琵琶法師そのものを作っているし、それ以外の何ものでもないのである。
お酒を飲みながら、気づくと昔話が節の付いた語りになってしまっている。口三味線で琵琶が鳴って。
仏教が民間信仰と限りなくブレンドされて、竈払いに彼が呼ばれ、雨乞いにも琵琶法師が祈りを語った時代のことを思うと(それは中世の昔のことではなく、つい数十年前のことなのだ)、芸術と生活の橋渡しなどと言っていることの空しさをつい感じてしまう映画でもあった。
つまり、山鹿良之のような芸能者が存在していた時代では、語り弾き歌うことが当たり前に祈りとなったからだ。つまり、芸能が、みんなの健康祈願や、平穏で豊作であることの幸せ願望に、ダイレクトにつながっていたからである。
山鹿良之の左手が痺れていることもあって特にそうなったのかも知れないが、琵琶の音はどこか現代音楽の即興ベーシストが作る感じに極めて似ている気がした。上映の後、片山旭星が「石童丸」と「ぎにあらたま」を実演してくれたけれど、山鹿の演奏は同じ琵琶とは思われない緩み方と音色、そして揺れる微妙なリズムだった。
あとで監督と旭星の対談がエピソードを披露していただき楽しかった(10ヶ月の撮影期間だったが、山鹿のいる熊本県南関町小春地区などで実際に撮影したのは30日間ぐらいだったという)し、最後の実演も座敷にマッチしていた。
特にアンコール的に弾いた「ぎにあらたま」という正月に演奏される口移しのざれうたは、旭星がこの最後の琵琶法師の弟子であることを実感させる面白い演奏だった。
失礼したが、この後に本当のおいしいお酒(ざれうたに盃やお酌の話がさんざんに出ていた)と豆腐が用意されているようだった。
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