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6/11(月)
青山真治『ユリイカ』京都朝日シネマ

せっかく京都市学互助会から京都朝日シネマの映画鑑賞入場券を1000円で買っておいたのに、今日の『ユリイカ EUREKA』(2000,217分)には使えなかった。2500円のところ、RCS会員なので2000円。脚本・監督/青山真治。音楽や編集にも彼の名前があがっている。製作/仙道武則。

3時間半の映画。とても長い。それに、めまぐるしく話が展開する訳でもない。
しかし、まったくこの時間は必要にして十分なのだろうと思う。「複雑でないのに不思議と退屈させない」。

主人公である沢井真(役所広司)が、バスの運転手のとき大きなショックを経験した後に、放浪する。「もう一つのバス」の運転手になって、ショックの現場に戻ってから、再出発するまでを切り取った映画。

「もう一つのバス」とはキャンピングカーのこと。生きよとはいわないが、死なないでいてほしい、というメッセージを伝えるための旅のようである。固定客しかいないバス。

知らない世界へと連れて行くことがバスの運転手であると思ってあこがれ就職した。でも、同じ所をぐるぐるする路線バスの運転手の味気なさ。それをハイジャックが切断した(してくれたと反面言ってもよかった)。

福岡県北九州市圏にある架空の名前の町(城石市)、そこがこの映画の場所だ。最後にカラーになるまで、モノクローム(セピア色がかっている。クロマチックB&Gといってモノクロのネガをカラーポジに焼き付けるフィルムだそうだ)。横に広い画面。牛の顔が現れたりするが、ヘリコプターからの上空風景が多く、大きな横長の景色が粘りこく走るバスの軌跡が続く。

画面で特色なのは、兄(直樹/宮崎将)と妹(梢/宮崎あおい)だけが住む一軒家(父親は自殺し母親は別の男に走って家を先に出ていた)。その戸口に立つ兄妹の姿だ。これは、沢井が入って3人になることもある。兄妹はあの事件の後、声がでない。画面がカラーでないというのは、二人の失音とも深く関係しているのだろう。

松本サリン事件で犯人だとされた男の妻がおかしくなった話を燐光群のお芝居でやっていたのを思い出す。バスをハイジャックした加害者は警察官(利重豊)に射殺される。生き残った被害者とその家族がこんどは、マスコミや世間の目(好奇心と猜疑心)の被害者になる。

兄妹の母親は、マスコミの電話や妹がレイプされたという世間の噂が夫婦の溝を顕在化させも家出の原因になったのかも知れない。もちろん、言葉を失った兄妹は直接間接に一番強く心の被害に見舞われている。父親の保険金目当てに親戚が押し寄せるという生命保険がらみの被害にすら遭っているのだ。

ジャックされて殺人を目の前に見た兄。彼はアナーキー状態になったまま(「なして殺したらいけんとや」)、無差別殺人へと走っていたのだった。何も言わないけれど兄のすべて知っている妹。一方、世間の目(沢井の兄夫妻など)によって直樹による殺人の罪を追わされそうになる主人公/沢井。

彼の不細工な志が、役人である沢井の兄の俗物性(自分と自分の家族がよければいいという)と鮮やかな対照になっている(それにしても主人公沢井の兄は役所の幹部だが、そこでどんな同和教育を受けているのだろう)。
殺害された土木会社の女事務員、離婚届を送りつけた妻、そして兄と学校に行かず閉じこもっていた妹。女性は常に加害者ではなく、どうしようもない寂しさを持っている。

沢井も殺害してもいいという衝動が出てくることがあるという。
何が彼を止めさせるのか。
バスの運転手になりたいと少年沢井が信じた同じ気持ちなのだろうか。

「もう一つのバス」を乗せて二人の兄妹(意外とその従兄弟である大学生に潜むトラウマも解放できるかも知れないが)と旅することは、他人のためだけに生きることは可能か、という問いへ真剣に取り組むためであった。

海と山、砂漠のような日本の田舎でもなく都会でもない風景の連続。
ラストのカラーが鮮やか。もちろん、モノトーンが続く間にも、夜から朝への光量の変化には「はっ」とさせられる。暗闇からすぱっと明るくなると、観ている方のまぶしさがキャンピングカーの4人にも伝わっているように思える。

通り魔ナイフ殺人事件。若い女性(OL)を直樹少年はなぜ殺すのか。もちろん人質だったショックがあるのだろうが、若く装ったスーツ姿が、新しい男の元へと出ていった彼の母親の最後の姿とクロスするのかも知れなかった。

一線を踏み越えた者は(これは直樹のことだ)二度と娑婆に戻らない方が本人にも幸せだという従兄、秋彦(斉藤陽一郎)。それを聞き、許せず秋彦を即座に殴りバスから降ろしてしまう沢井。

いま池田付属小学校無差別殺人事件の被疑者の精神状態(最近は偽装という報道もでてきた)と法的措置が大きく取り上げられてしまった。新聞にも少し触れられていたが、精神障害者への差別意識が助長されないかどうか、極めて心配である。


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