Arts Calendar/Art's Report site/《KOGURE Journal》Seiryu-gekijo

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12/24(金) 
清流劇場『かたつむりの島にへんな人がたずねてくる記』ウィングフィールド

昼間職場でセクハラについての研修のほかに、在住外国人や障害者との関係まで含めた同和(被差別部落)問題の啓蒙映画を見て、まだまだ差別意識は残っているが根気強くやっていこうという善意にあふれた気持ちになったところだった。具体的には、部落のおばあちゃんが、在住外国人と一緒に日本語を学ぶ(識字)までの話で、日本人でひらがなも読み書きできない人を好奇の目で見る(それが部落民とか外人とかの差別意識に結び付けられる)話などが中心。

そしてこの芝居。何だか符号が合いすぎている。しかも、こちらは簡単にハピーにはならず、差別意識の固まった「悪」のどろどろが、野太くしかも滑稽なテンポを持って描かれていて、クリスマスイブに観る芝居じゃないなんて思いつつ、昼間の善意と希望に溢れた映画(啓発としては悪いものではない)を、毒をもって深めることができた。

清流劇場『かたつむりの島にへんな人がたずねてくる記』作/香中穹、演出/田中孝彌。心斎橋のケーキを山積みした百貨店やアベックを見ながら、ウィングフィールドに。19:37〜21:05。

少し清流劇場を観ていなかったので、以前見ていた内面の欝々とした芝居からは大きく変わっていて驚いた。辺鄙な漁師町のスナック(田舎のクラブ風)を舞台に、けだるい日常を書くのではなく、緊迫した、でもどこか間の抜けた人たちによる葛藤状況をうまく活写した意欲作だと思う。

題名はえらく長い。ちょっとすっきりしない不器用な感じもする。でも、題名から考えさせるようになっている。「へんな人」というのが、密漁する(かたつむりをとるのだから、密猟かなあ)漁師、それも日本人と「あちゃらの人」のことなんだろう。それから、有名な海洋生物学者もかなり歪んだ「へんな人」だ。そして、大切なのは、この「へんな人」というのが、自分たちは普通で彼らは変だ、という差別意識を浮び上がらせる点。

演出は、暴力シーン、戦いシーンも、セックスシーン(ほとんどスクワットしているんだけど)も、お触りシーン(これは結構やっている)も、脅しシーン、いじめシーン(ことばのいじめは、もっとこわいものが最近の芝居には多いけど)も、躊躇なく描かれ、全体が緊迫感のある骨太な社会演劇になっている。

ただ、ラスト近くの回って狂おしくリアルさをなくするところから、「槌島の生き物」(田中孝弥:作演出も同一人だから、彼には名前が3つあるわけだ)が来てだんごになって争って行くおしまい辺りは、どこか粗さが目につくのも事実だ。

引き付けられる要素の中で、役者の力も大きい。まず、町の役人宅間を演じた森下浩充。スナックでの迷惑エッチ(職場でセクハラしないための情けない解消手段)、でも漁業組合長なべさん(はしぐちしん)の権力の前ではすぐに卑屈になる「宅間」を好演。半端じゃない彼の体躯の太さが、なべさんから「でぶ」と罵倒される。そのなべさんが車椅子の障害者(役者はしぐちしんが実際に障害者なので体当たりの迫真演技)だから、関係はややこしい。

中心は、このなべさんとなべさんの弟建夫(松蔵宏明)の「悪」者ぶりを、しつこく醜く描く所にあって、二人ともその任を全うしていたと思う。障害を有することを使った権力者、差別される者を逆利用する抑圧者の典型を見せるはしぐちしん。

対して、どこか甘えがあり頭が悪そうで、その悪さに無自覚なまま「あちゃらの国のことば」をしゃべる韓国人に「普通のことば」をしゃべれと強要する弟の建夫/松蔵宏明。特に弟が、かたつむりを密猟していて恐怖いっぱいのなかで、弱いと見るや、同じ密猟する韓国人二人を改造ライフル(もどき)で脅し突きさすシーンは、パタンだけど、鮮やか。

あとは、生物学者岡崎(石本伎市郎)もぶよぶよ太く醜く登場する。「すけべ」で自分中心、お勉強していて幼児性が顕著な学者パタン。トイレでうんちしていて紙がなくて、手で拭いたことがみんなにばれて、気持ち悪がられる。それで「差別だ」と思わず岡崎は口走り、なべさんから「それは差別じゃなくて不潔」と言われるあたりが、おかしい。

粗筋は、日本と隣国で領土争いがある槌島に、オオアゴブタカタツムリというとてもおいしくてヘルシーな新種が発見される。外交問題になるので、町役場としては漁協に自粛を要請。でも、1匹16万円もするのをほっとくのはもったいない。

舞台は、赤いテーブルのスナック(ホステスは3人とも姉妹)を中心に、夜の槌島、それに昌平(長田ススム)と寿子(小寺智子)がセックスしている部屋。寿子とその兄正哲(高木健太)が在日コリアンであることが判明して、昌平が結婚を保留することになり、正哲は隣国の親戚と連絡を取っていることで、建夫から迫害される。

女優陣では、スナック藤のママ役の山下リキが貫禄。彼女の妹(武資子)は建夫の心が離れて、ママに向かう寂しさを陰気なイジメへと欝屈するが、素材が豊富な中では少し難しい役柄。女性たちのそれぞれの性格を浮び上がらすほどまできめ細かく彼女たちを描いてはいないのは残念だ。

差別意識の引きつった滑稽さを露悪的に引き出す大人計画のような笑劇的作りでもなく、燐光群や199Q太陽族のように社会問題に正面に向かいあうものでもなく、桃園会の陰惨さとエロティシズムがつややかに浮かぶ舞台とも違う、また独自の視点で芝居づくりを続けて行く演劇人がここにもいるなあと、賑わう心斎橋をすり抜けて、家路を急いだ。


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