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12/10(金) 
『鈴木貴彦ピアノリサイタル』バロックザール青山音楽記念館(京都)

上桂(阪急電車で嵐山に行く支線)にある、バロックザール青山音楽記念館。訪れるのは2度目だ。

200席がほぼ埋まっている。山ノ脇道元(28参照)と同じく、大井浩明さんの手紙(紹介文)によって聴きに行った。その手紙を和服の可愛い女性に見せると、2000円のところを1500円にしてもらえる。

鈴木貴彦ピアノ・リサイタル。19:03〜20:43。今日がソロ・デビューの若手だが、大井さんと、ブーレーズ、リゲティ、松平頼則、ベートーヴェン「大フーガ」に至る連弾曲を共演しつつ、安川加寿子賞をとったりしている。

そして、大井曰く、鈴木貴彦という人は「かの最難関・東京芸大ピアノ科の入学試験に遅刻しながら見事現役入学を果たすやいなや、『どうも行く気がしなくなって」、わずか三日間で超スピード中退、その後ネパールやウイグル地方をフラフラと放浪するうち、気が付くと、京大に新設された総合人間学部の第一期生になっていた」。そして、京大大学院・人間環境学研究科・哲学専攻在学中で、修士論文のテーマは「後期ヴィトゲンシュタインにおける言語と他者」。シューマン嫌い。

いいなあ、頭いいだけでなくて雰囲気もかっこよく、長身で細くて髪の毛はらり、細くて長い指にピアノの鍵盤に触れていなくても音がかってに浮遊するような弾きざま。

一番始まる前に感心したのは、緻密で丁寧な(リスト『2つの伝説』序文から、と、ボードレーヌによって発見された先駆的詩人アロイジウス・ベルトラン作『夜のガスパール』の詩が載せられている)曲目解説プログラム。もちろん鈴木自身によるもの。

その初めに、フランス音楽が複数の精神性の上に開花した芸術であり、本質は《多数性》にあること。そして「それがフランスにおいて最も顕著であるのは、パリという極めて特殊な都市の存在に由来している。今回取り上げた作品は、1863年(リスト)から1946年(ブーレーズ)まで、相互におよそ20〜30年の間隔をもって書かれている」。と、今日のリサイタルにおけるプログラムの骨格が明確に述べられている。

さて、フランツ・リスト/2つの伝説。第1曲「アッシジの聖フランチェスコ《小鳥たちへの説法》」。

なんという繊細なデビューのトレモロ。ピアノから浮き上がり零れてくる音の飛沫。そして堂々とした和音。低音から沸き上がり、そしてささやく高音。リストの晩年、宗教性に満ちつつそれでも華やかな表現性。

第2曲「パオラの聖フランチェスコ《波の上を渡る》」。激しい波、押し寄せ、そのうちに渦巻く。次第に、静かに穏やかになって。変化の鮮やかさ。

どちらのときだったかさだかではないが、目をつぶると、四角い窓があき、少女が浮かんでいてそれが耳に入る音に動かされて老人の顔が浮かんできて(うとうとしたわけではなかった)、びっくりして目をあけ演奏者を見つめた。

次は、サザール・フランク/前奏曲、コラールとフーガ。実に内向きに構成された音楽。リストを振り払うように(いやリストを先導者として活用するかのように)、構築される(もちろんこちらの頭の中で)。

そして、聴衆になんの景色もイメージも与えない。ひたすら音が思考し綾なす。リストの時もそうだったが、音の終わる直前の余韻が丁寧に与えられ消される。特に、音の消える瞬間がぞっとするほど美しい。疲れ果てたように、ぼーっと帰る鈴木。いかばかりの集中だったのだろう。19:42。

しばしの休憩の後、ピエール・ブーレーズ/ピアノソナタ1番。

21歳ぐらいの初期の作品。こういう十二音技法がぎゅっと凝縮した音楽は、はつらつとして心地よい。はっきりいって、次のラヴェルよりもずっと聞きやすく、興奮する。第1楽章の、レントとアルペジオの相互の確執。第2楽章では、官能的な響きが暴力的な音の錯乱の中から浮び上がってくる。

でも、やっぱり華麗で心酔わす、モーリス・ラヴェルの「夜のガスパール」。

第1曲「水の精(オンディーヌ)」第2曲「絞首台」第3曲「スカルボ」。特に、スカルボでは、ジェットコースターに乗って、下まで墜落して行くときの眩暈と、無重力へと突入して行く快感を感じた。

アンコール第1曲は、プーランク「ナゼルの夜会」CadenceとFinal。少しリラックするけれど、まだまだ強いエネルギーの余韻に浸っている。フランス音楽の多数性がまた一つ。

そして、最後は楽譜を持ってきて、大バッハ、カンタータ第147「主よ、人の望みの喜びよ」。終わると初めて鈴木貴彦が少し微笑んだように思った。

なお、後ほど届いた彼からのハガキによると、“・・今後の演奏予定としては、2月22日(火)に東京・王子にて「未来から来る演奏家を聴く会」というコンサートに出演いたします。・・それとNHK-FMの「FMリサイタル」に出演いたします。放送は2月21日(月)15:30-16:00と翌22日(火)10:30-11:30(再放送)です。曲目はリストとブーレーズです。・・”


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