23 11/5(金) 

伊藤キム+輝く未来ダンス公演『少年〜少女』改訂版、伊丹アイホール

構成・演出/伊藤キム、振付/伊藤キム+輝く未来。19:37〜20:51。

去年観たので、ダンスの要素はみんな覚えているのだが、その時感じた物足りなさが、嘘のよう。

初演では、きちんとした舞台美術は照明の兼ね合いもあり美しかったのだが、勅使川原三郎とか山海塾とかとの類縁をどこか感じ、世界向けを狙ってお行儀のいい分形にはまっているようで、おすまししちゃあいやだよ、と寂しい気持ちがしたものだ。

ところが、このAI・HALLの大きな舞台が、今回は「大浴場」の気安さに感じてしまう。バームクーヘンが何層にも襞になって、照明の影がくっきりする美術も音楽も(たぶん)同じなのに。

奔放さが整序さに押され気味だったのがいい案配に戻ったような。何だか、伊藤キムが開店直後の銭湯にいの一番にやって来て、少年少女と、水飛沫を上げてのびのび遊んでいるように思えて(ダンスの内容とは無関係な連想です)嬉しい気持ちがいっぱいした。

まず下手から伊藤キム。影、頭下げ、姿が浮かんでくる。何かを探している。チューニングできていないラジオノイズ。

やはり下手から、女4人が同時に入ってくる。これからしばらく、下手から上手へと、9人の男女が流れて行く。音は証券市場、本日の株価が読み上げられる中。

割と単調なユニゾンやハイハイやらで構成されるパレード。複式になることもあるが。そのなかで遠田誠の、せわしな口元でくるみなぞを食べるリス様な仕草は目出つ。時にごろりと転がって、前方斜めに移る。

前景で向い合う男二人、女の足の周りにまとわりつく男2人も面白い。女性はそんなに目立たない。最後は背の低い女が一人、二人の女に見つけられる部分があって、最初のパレードが終わる。

伊藤キムのソロ。無音。上手からハイハイ。床にキス、掌を眺める。していることが明晰だなあ、と思う(パレードの少年少女も含めて)。具象性が増してくる。
そういえば、一度髪の毛をのばして、いまは弁髪もなくつるりなのね。
壁に向かって腕のねじまくり、膝で立つ不安定さ。

子どもの声に水の音。西洋クラシック音楽が控え目なのは私の趣味だ。転げ回るところなんて、彼を観だした頃を思い出してくれる。

下に赤がさす。いままでの光が赤に変わる。

初めて、メロディアスな音楽。チェロとかオーボエとかの類。少女のスカートが半透明になって脚がシルエット、きれいだ。この赤と黒の世界は一見暗そうだが、目を閉じると意外と明るいことに驚く。まばたきするとおもしろい。

男と女、二人ずつが、デュオ二組になる。がくっと倒れそうな男を女が支え、そのうち倒れそうになる女を男が支えることも起きる。

少年少女負いやすくがくっとなりやすし、だ。抱き合うことは本当に後の方で。こんな愛の形もあっていい。キムが4人の中に飛び込む。5人が余り遜色がなくそこで踊っている。

また、音が無くなる。上から斜めに壁に沿って光が落ちる。一人立ち尽くすキム。左腕だけが浮かぶシーン。とぎれとぎれの音。中村としまるらしい音づくり。馬鹿たれな連想だが、タモリのふざけ芸(相撲の土俵いり)とか、ピエロの洗練された動きにも見える。惑星ピスタチオのパワーマイムになぞる対象をなくしたものという感じとか。音が大きく刻まれる。

キムが何やら客席を煽っている。でも反応はない、ますます苛立ち、指さす。口も何やら言っているような、ただ空けているだけのような。男4人は醒めて見ている。酔っ払いが何かに囚われ幻の怪獣と一人芝居をしているようだ。

光が変わって、4人が痙攣笑いに。女5人が入ってきて9人が入り乱れる。今度はキムが後ろでひっそり。キムが一人、こちらに歩いてくる。下を見る。汗か涎が垂れる。探している。

キムをみんなが見ている。水音。顔をぬぐい、座る。頭を支えて横たわる。ゆっくりと一人ずつ、優しい音楽も戻ってくる。また一人横たわる。水音は止まる。世界は黒が増してくるが強烈な赤とのコントラスト。

簡単には溶暗しない。みんな同じ姿になって(ここは少し安易かな、と頭に掠める部分の一つ)、闇へ。でも、忘れることは無いだろう・・・。


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