Arts Calendar/Art's Report site/《KOGURE Journal》duo in the temple

110. 
7.8.土 
アサクラコンサート企画『お寺で黄金のデュオ』伏見・光徳寺

京阪の中書島駅に初めて降りる。なぜか花の苗をプレゼントされる。ちょうど「伏見夢みなとまつり」開催中だった。長建寺のお祭りは月末から。ここは伏見の酒蔵があったり寺田屋があったりする。

めざす光徳寺は壕川沿いにあって、住職さんが言っていたように「伏見のヤブ蚊」はここからどんどん誕生するだろうな、と思う流れだ。でも、紫陽花が終わりになって代わりに夏の花が咲いている。

アサクラコンサート企画『お寺で黄金のデュオ』18:05〜20:48。賀茂なすを朝倉さんにいただいた(一坪地主にならせてもらっている大文字国際交流音楽祭がまたやってきたわけだ)お礼に、下の娘さきになすの絵の葉書を描かせて、泰子さんに渡す。

光徳寺は新しく建て直されたお寺のようで、住宅と連続している。座敷に150席ぐらいの座布団と後ろに椅子が置かれている。地元の家族連れとか、東南アジア出身の若いカップルなどが来ている。

18時になって、お坊さんが廊下に吊された鐘を叩く。よく響き残響が長く伸びる。早打ちになったなあ、と思っていると住職さんがお香をたてる。
扇風機が回り、簾越しに樹の緑がざわめくのが見えきこえる。烏がねぐらに急ぎ、時折小鳥の声がする。雨は降らなかったし風もあって過ごしやすい夜。終わったら上弦の月が出ていた。

スポットライトはあるが、客電はついたままだ。まずピアノのアルバート・ロトが一人でやってきて、バッハ(マイラ・ヘス編曲)「主よ、人の望みの喜びよ」。アンコールにありそうな選曲だけれど、聴き馴染みあるメロディーから始める形をとったのだろう。PAはどこにもない。畳だからか、音は少しくぐもって(ピアノで時折濁った感じに聞こえることもあった)、優しく届く。

自宅にあるピアノを友達が弾いているのに耳を傾けているような風情だ。フルーティストのトーマ・プレヴォ(奥さんが日本人ヴァイオリニストで、ロト夫人も日本人ピアノ教師)が登場。二人は息のあったコンビらしい。

バッハ「フルートとピアノのためのソナタ/ト短調」。1楽章が終わったときに後ろの方から拍手が聞こえて、こりゃ、これで終わりなのかしらとつられて私もぱちぱち。でも、やはりバッハの2楽章が始まって、ちょっと演奏する方はやりにくいかも、と思ったりする。

結局、次のベートーヴェン「フルート(ヴァイオリン用を置き換えたもの)ソナタ第1番ニ長調」でも、楽章ごとにすべて拍手が入ってしまう。

気楽な場所だからいいかなって思っていたら、後半になって、R.シュトラウスのソナタの前に、優しく(楽章ごとに拍手をするのは法律違反ではないのですが、演奏する方とか聴く側でも持続力が減るので)、最後にお二人がニコッと挨拶されたときにまとめて拍手をさしあげましょうと、朝倉泰子さんから注意があってほっとする。

トーマ・プレヴォのフルートはPAがないからか、音量は大きくなく、ピアノと混じり合って、少しくすんだ印象。徐々に、音の特質が自分の耳に馴染んできて、ベートーヴェンの第2楽章の変奏部分の短調の劇的な感じや、おしまいのピアノとフルートが呼びかけるあたりになると、心がぐいと傾いてくる。

一番好きだったのは、前半最後のヴィトール「フルートとピアノのための組曲ハ短調」で、1898年作曲のもの。オルガニストとして有名なこの作曲家は不勉強で初めて聞く人だったけれど、4つの楽章の所々に、意表をつく場面や、情景がぱーっと浮かぶ箇所があって、このヴィトールという人を知って得した気分になった。

第1楽章は意表をつくピアノの出だしから、メロドラマ風のメロディーがいっぱい。第2楽章は短く軽い。第3楽章になると静かな音が深みが出てきて、特にフルートに艶が乗っていく様が見えるようだ。第4楽章はスケールが大きく、きらきらした光に映る水面が見えてきてしまった。パリ市立美術館にあるデュフィーの絵がやってきたかのようで。

 休憩に、冷えた宇治茶(お煎茶)と鼓月のお菓子が配られる。お盆で回していくときに、お客さん同士が声を掛け合い、終わったお茶碗を片づけ合う。その交流がさりげないものではあるが、貴重な振る舞いとして心に残る。これが一番朝倉さんち流だなあ、と思う。

ここの美棲聰住職とアルバート・ロトによる凸凹対談があってから(19:39)、アルバート・ロトのピアノ独奏。住職によるリクエスト曲だったバッハ「パルティータ第2番」。芳江はこれが一番心に響いたらしい。この時だけ客電を落とし蝋燭を灯した。

続いて客電をつけて、ショパンの練習曲「別れの曲」、ワルツ第8番、第7番(子犬)、練習曲「黒鍵」と続けて演奏する。ファミリーコンサートであることを十分考慮したものだろうが、小品といえどいい加減で弾いていないので、はっとする瞬間がある。黒鍵を弾き終わって廊下に出たロトが戻ってきた。リクエストがあったので、夜想曲をしますと話してから、しみじみとノクターンを演奏する。途中でリクエストを受けてすぐに弾くという場面は初めてだ。

最後は、R.シュトラウス「フルート(ヴァイオリン)ソナタ変ホ長調」。堂々とした演奏。ただ、今夜はやっぱり繊細なヴィトールみたいなフランス音楽の方が合っているのではないかな、とも思った。

 アンコールは先ほど他界した中田喜直の「小さい秋見つけた」の歌を用いた変奏曲。羽のようにピアノの鍵盤をなでるアルバートの演奏にうっとりする。譜面をめくっている若い男性は、ひょっとしたらアルバートの息子さんかも知れない。

 終わって一番前の老婦人たちが二人に花束やおみやげを渡す。ゆっくりと渡し、そのあともしばらく話している人たち。コンサートホールでは見られない光景である。


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