Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》01/11/6
●2001年11月 <その2>
仕込みの毎日●「三人姉妹」を再演する
今日無事に公開リハーサルが終わりました。常に関係者でほぼ満席になるという、パリのオペラ関係者・オペラフリーク恒例のイベントだけあって客席の雰囲気も独特。いわゆる前夜祭的な、形だけの公開ゲネをイメージしていたので、客席の熱気には圧倒されました。いつもはカジュアルなスタイルでラフに構え、自分の出番の直前までおしゃべりをしている歌手も、ペーパーブックを譜面台に置いて隙があればページを繰っているオケのメンバーも、さすがにテンションが上がって全く本番と変わりません。やれば出来るじゃん、という風ですね。
国民数が少ないからなのか、パリで働いているフランス人のほとんどが田舎にルーツを持って農業を営んでいる親戚がいるせいなのか、その原因についてはよく分かりませんがともかく彼らはお話好きで、仲良しで、家族的なんです。リハーサルを子供に聴かせていたり、休憩時間に犬の面倒を見ていたり。オケのメンバーもピットから顔を出して舞台を見てたり、カーテンコールのときには指揮台によじ登ってお客さんと一緒になって拍手をしてたり。
もしかすると、特別なことをやっているという意識が全然無い人たちなんでしょう。日々、当たり前に楽器を鳴らして、あるいは劇場に通って、時々のディレクターの指示に応じ、自分たちのペースは崩さずに仕事をする。若手は20才位から、ベテランでは60才位まで、給料の多寡はあるとは思いますけど、基本的・原則的には全く平等に作業に携わっています。とても楽しそうに。
ワークシェアリングというのとはまた少し発生の仕方が違うようにも感じますが、ともかく1日8時間。機材や道具の仕込みの日は9時〜13時、14時〜18時、19時〜23時。稽古が始まってからは14時半から30分の準備があって15時から18時のリハ、19時〜22時までのリハとその後の片付けで23時。スタッフはあいだで2回の入れ替えがあって、各々週40時間以内の労働をこなします。
今回のケースでは、10月22日・23日の両日が道具と照明のセッティング、次の日は12時間のフォーカス(それぞれ一灯づつを決めた場所に当てる作業)、それから舞台稽古と道具音響照明の作業が4時間単位で入れ替わる数日があって、10月29日がピアノでの総ざらえ、翌日がオケを伴ってのサウンドチェック、以下GPまでの日程。照明も29日には本番通りの明かりを出し、そのあとの毎日で稽古に合わせながら手直しをして、初日を迎えるということです。
照明的には、ともかく毎朝の4時間が勝負で、それが一週間も続くので、もう緊張感を持続できず、今日が終わったあとでは何も手直しする気にならない感じです。照明のために80時間取ってくれているのですが、12時間を使い余しました。申し訳無いけど、限界ですね。変に手を入れるとバランスが崩れてしまいそうで。時間が少ないのもストレスがたまりますが、余るのにも困ったもんです。現場には歓迎されましたけど。あとは初日を開けるのを待つばかりです。
音楽家を相手にするということは、つまり耳の作業が増えるということです。彼らは耳で解決できないことを、今度は目で補います。そのためにPAもVDも活用して、どんなことがあってもオペラを演奏しつづける構えを作ります。視覚要素というの観客のためのものでしかなくて、オペラの場合聴衆も多いので、どうもいつもと仕事の勝手が違って戸惑います。今回は字幕のための電光掲示板も3つあり、何をどう見せるかよりどれだけ見易い舞台を作るか、に腐心することとなりました。
多国籍プロダクションなので当然のように多言語現場になります。ロシア語の作品を、ロシア・ポーランド・ドイツ・フランス・イギリス・アメリカからオーディションされた出演者が歌い、ハンガリーの作曲者とアメリカの指揮者が音楽を作り、日本の演出家がフランスの劇場の技術陣を仕切ってオペラにまとめる。ここはフランスなのでフランス語が基本の言語にはなりますが、いやはや、パリという街の多民族感などふっとびます。
また、コントラテノールの最高音部を担当する歌手の故障に備えて、2人の代歌手が常時つきます。教会歌手の多いヨーロッパだからコントラテノールは少なくないそうですが、オペラでフルオーケストラと一緒に歌える声量のある歌手が、そんなに簡単に何人も見つかるものなんですかね。ちょっと凄いことなのでは。
習慣や志向が異なるのでここで通用する感覚は第一に音楽、その次は合理的に解決が求められる類の理屈、第三がディレクターの趣味。視覚的な音楽を実現しようとする必要は無くて、聴覚を第一に据えて、そのテキストの世界観や現在的なオペラの姿を顕在化する、そんな仕事をしていました。
ぼく自身の感覚では、お芝居が直方体の時空間だとすれば、オペラは楕円球のそれですね。もちろんそれぞれ立方体や真球体を築造しようとしているわけです。が、外側から削って刻んでという作業と、中心から少しづつ素材をくっつけ押して伸ばしての作業では、出来てくるものの表面は当然変わります。
日本に戻って、歌舞伎や能をもう一度見てみようと思っています。
(2001/11/6)
岩村原太の「万国文化中心報告」の扉へ
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