Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》02/10/04

万国文化中心報告 vol.76

●2002年10月  <その1>

ピッツバーグ●ベネダムセンター

 3年ぶりのアメリカツアーです。初回の公演地はペンシルベニア州ピッツバーグ、そのダウンタウンのカルチュラル・ディストリクトにいくつもある劇場の一つ。いかにもアメリカを感じさせる大劇場を訪れました。1920年代の建物、90年代後半に大規模な改修がなされています。ここを使うのは1990年から数えて4度目、懐かしいお馴染みのスタッフさん達との再会シーンから、仕事が始まりました。

 ともかくこの圧倒的な客席観をどう伝えたら良いのか、優に2800席を確保できる2階層、建物の端から端まで、見下ろす足元からぐっと見上げたその先まで、見渡す限りの客席が強烈に迫ってきます。天井はその客席を覆って大きく、中央に下がるシャンデリアの規模はヨーロッパのそれらとは比べ物にならないほどでかい筈なのに、それがちっとも大きく感じないくらい。
 2階席の勾配はかなり急で、野球場のスタジアム席をこの劇場に合わせて切りとってはめ込んだような、他の国ではちょっと見られない独特の客席の広がりがあります。垂直に切り立つ客席側壁と、2階席の底にあたる1階席の天井にもシャンデリアが下がりますから、旧大陸のオペラハウスの伝統はここに形を変えて継承されていた、そんな感触を持ちます。

 ディストリクトに有る劇場は全部で4つ、トラストを構成して共通のプログラムを発刊しています。ピッツバーグダンスカウンシルが主催の今度の公演では、カウンシルがこの劇場を借りる形のようですが、カウンシルもトラストのメンバーなので、劇場はただ単に舞台と設備とを貸し出す仕組み。スタッフは劇場管理役も含めて全員が労働組合(ユニオン)に属しています。
 カウンシルは現場の作業員をユニオンに発注して揃えることになります。2時間に1度の休憩、食事前10分間のウォッシングハンド等、時間厳守が有名なユニオン制度ですがそのおかげで何世代にも渡る現場作業員が営々脈々とその劇場を守ります。
4代直系の大道具さん(お祖父さん・お父さん・ご本人・息子さんと娘さん)が現場にいましたよ。およそ100年に渡るプライドが彼らを支えます。

 そんなわけでここでは仕込みが2日間に渡りました。朝8時から夕5時まで、途中1時間のランチタイムを取って計8時間。現場はバタついたものの、夜はゆっくり過ごせましたから時差ぼけの身には有りがたかったです。12年間の中では初めてこの街の人々を眺めて見ると、週末の夜は結構華やかなダウンタウンでありました。大通りを一つ越えるとそこはいきなりバーやスーパーが並ぶ繁華街になっていて。
 ピッツバーグは鉄鋼の街、今でも鉄鋼業界のお金が町を潤しているようですが、ご多聞にもれず劇場群の殆どはそうした業界の大立者が建設資金を提供した施設なんですね。そして改築改装や場合によっては運営資金の一部も寄付されていたりするようなので、劇場文化を巡る環境は日本とだいぶ違います。多少微妙に外国人・文化に対して閉鎖的かもわかりません、けどそれも日本ほどではないでしょう。

 ユニオンハウスは掃除も行き届き、規律もしっかりしているので、働いていて本当に気持ちがいいです。無駄なものは一切置いていないし、装備設備の類もきちんと決められた場所に格納されていて、スペースにゆとりが有ります。つまり、現場作業員として誰が来ても即座に迷わず仕事ができる環境が整えられている。その点はヨーロッパの劇場にもあまり見る事のない例かな、と思います。
 創作現場としてでなく労働現場として劇場が整備されている、そういうことです。文化施設と言う感じが余り漂わないのも、それが遠因かと。NPO・NGOの文化団体が発達するのもこうした背景を鑑みれば良くわかる気がします。少なくともそこには、人件費削減のための合理化、という思想は皆無です。全員が、全員のために、全員で働く。当然全員で休憩し、全員で労働条件を護る。

 サービス持ちまわり、的な雰囲気がてんこ盛り、この国では芸術さえもが労働行為にみなされているようで、やっぱり強烈なカルチャーギャップを味わったことでした。

(2002/10/04)


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