Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》02/9/7

万国文化中心報告 vol.72

●2002年9月  <その1>

テアトロ・ソシアル●北イタリア・トレント

 余り馴染みの無い地域なのでどんなところかと思っていましたが、ヴェローナを北へ50km、ミラノやヴェニスまでもそんなに遠くない土地。チロル地方といわれたのですが、つまりもう山のなかに位置しています。夏はトレッキング客、冬はスキー客達の基地になっているようです。
 ローマ時代からの街だそうで、名物は中世からルネサンス期にかけての城や建物。たしかに素晴らしく、見事に保存再生されていて、この秋口のシーズンも観光客で一杯です。城から見渡す山々の眺めの雄大なこと、高く晴れ渡った空と相俟ってしばし仕事を忘れさせてくれました。

 さて、そんな街全体文化中心的雰囲気の中で、劇場はその一部門的な小さな扱いをされています。大学や教会・市庁舎などが肩を寄せ合って建ち並び、細い路地が蟻の巣のように行き交っているので、地図を片手に歩いてもどこに小屋があるか判然としません。入り口だけが喫茶店とかばん屋さんの間にポッとあって、恐る恐る中を覗くとそこにチケット売り場が忽然と現れる感じ。前々世紀からの劇場だそうですが、どんな具合に社交場だったのかが俄然知りたくなります。
 実は今回のフェスティバルのメイン会場は25kmはなれたロベルナという街にあって、その会場では私たちの作品は(規模が大きすぎて)上演できないので、この別会場を組織委員会がレンタルして、他のカンパニーと合わせて2週間のプログラムを構成したとか。何故そんなアクロバティックなことが可能になったかというと、この劇場が改装築を終えたばかりのお試し期間だったから。劇場そのものにまだ明快な人的組織が無く、運用以前の様々な調整が同時進行中でした。

 この劇場も90年代の半ばから、客席部は床の張替え(木造から鉄筋コンクリート造への大規模な改修を含む)・椅子の入れ替え、舞台部は床の打ち直しと外壁から屋上までを全て作り直して最新鋭の機構を導入、楽屋部はほぼ新築、という状況。
 教科書に出てくるようなイタリア式馬蹄形のホール、現代ではすっかり見捨てられた感のある垂直に積み上がった多層バルコニー席(700弱)、遺物と新文明の混交がこの劇場の持ち味みたいです。フランス式やドイツ風のオペラ劇場よりも古いスタイルの小屋がこうして生命を永らえている様子には、それだけでも胸打たれ、いろいろと考えさせられてしまうもんです。

 この劇場、地下1階がありません。ローマ時代の遺跡がはまり込んでいます。というより、元の建物が遺跡の上に乗っていたんですね。その遺跡をそのまま残して舞台を組み、その遺跡の脇から下を掘って楽屋にしてあります。地上階から通路を降りると、ぼこぼこと大きな石が突きだしていたり、楽屋のドアの前に石壁の基底部が横たわっていたり、仲々ダイナミック。楽屋口の横にその遺跡の窓口があって、そこから建物の下(客席を貫通して表側まで続く)を見学するようにしてあります。井戸や道路などのかなり状態の良い遺跡です。
 
 劇場独自のプログラムは全くこれから。どんな観客を集め、どんなカンパニーを育てるのか、興味の尽きない劇場の一つと出会いました。

(2002/9/7)


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