Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》03/6/12

万国文化中心報告 vol.93

●2003年6月  <その3>

「ラヴリー」の意味●サドラーズ・ウェルズ周辺

 英国一般、あるいはロンドンでのことなのか、この劇場特有のものか、お願いした作業を終えるスタッフにお礼を言えば「ラヴリー」と返ってきます。英語圏での仕事はアメリカが殆どですから、しかもぼく自身はロンドンのこの劇場以外のイギリスの小屋を知らないので、この「ラヴリー」には面食らいます。軽く「(喜んでもらえて)良かった」というような感じなのかもしれません。
 始めてここを訪れた1999年の頃は、このエンジェルという地下鉄駅の周囲は余り賑やかな感じではなく、1月だったせいもあって暗い寒々しい印象ばかりが残りました。その後着実に再開発の手が入り続け、2003年の今日ではエンジェル・ステイションの周囲は明るいショッピングモールが建ち、商店街がリニューアルをしていたりで、休憩時間を過ごすのも決して苦痛ではない雰囲気になってます。

 ともかくこの劇場は毎週ゲストカンパニーを迎えて何がしかの公演を行っているので、よくよく考えると本当に大変な激務をスタッフたちは消化しているんですよね。スタッフの控え室は奈落(正確には地下1階)、2階(フライフロアのあるところ)、それと別棟の3階以上(オフィスフロア)に散らばり、下手袖の掲示板に全ての図面などが張ってあって、そこが情報交換場所になっているみたい。
 出勤のシフト表も全てここにあって、私たちゲストカンパニーのメンバーもその掲示を確認すれば明日何が出来るかが分かる仕組みです。今回は5ステージ、普段の山海塾の旅現場が2公演という事を思えば、本当にゆっくりと劇場ライフを堪能できて大変「ラヴリー」です。彼らスタッフも2日目から4日目は午後3時入り9時退勤のペース、折からの夏陽気に皆、半ズボンで出勤する照明チームです。

 ロビーもすっかり様子が整いました。下手側の廊下は改築以前のサドラーズ・ウェルズを記念する展示スペースになっていて、新聞記事や銅版画、前の建物のオーナメントなどが並んでいます。1階には丸くガラスが嵌め込まれた床があって、近くの壁のコイン投入口に小銭を寄付すると、一定時間照明が入って昔の劇場の基礎を残してあるのを見ることが出来ます。小銭は改築費用の一部として活用されます。
 上手側の2階は壁の一面、床から天井までがガラス張りになったレクチャールームです。記者会見やダンストーク、また山海塾の公演時には最終日(土曜日)の開演前に1時間のレクチャーが予定されています。そしてそのロビー側、1階から3階までにバー・カフェが配置されていて、ここは開演1時間前から営業をしています。待ち合わせや何かが出来るように、チケットを持ってなくても利用できます。

 楽屋口、楽屋廊下にはそこここに功労者を顕彰するタブローやレリーフが掲げられ、この劇場の由緒を訪れるものに知らせています。確かにそういうことでもないと余りに巨大な劇場組織に埋没してしまい、自分がどういう仕事をしているのかが見失なわれそうになる感覚を味わいますね。新建築ですから天井は高くなく、防火のための新建材が多用され、建物の持つ雰囲気がとても軽くて歴史を感じさせませんし。
 「ラブリー」は改築前からそうだった、と山海塾に同行する音響さんが言ってましたので、建物が変わっても人は変わらないという証明でしょうか。そうそう、この劇場は音造りが難しい、世界で3つの劇場の内の一つ、とのことです。今時の劇場とは思えない古めかしい客席配置が災いしているのですが、そのへんはちっとも「ラヴリー」じゃないみたいです。

(2003/6/12)


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