Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》04/3/5
●2004年3月 <その1>
階段の劇場●クレルモン−フェラン
フランス、南西山地の入り口に位置するオーベルニュ県、その主府。パリからの電車の旅はビル街を抜け灰色の住宅街を通り、見渡す限りの牧草地を約3時間、所々の黒いとんがった鐘楼の影を見せる教会を取り囲む家々が人の住む気配を感じさせてはくれるものの、春まだ早きこの国の厳しくも穏やかに過ぎていく季節が、空の暗い雲色と柔らかなブルーのマーブル模様にも顕われます。
グレーのセメントで仕上げた家壁に乗る、赤褐のレンガ色の屋根瓦が懐かしい。やがて木立が目立つようになり、雪に汚れた山肌が段々と近付いてきて、のどかな平地からスイスへと抜ける峠の入り口に差し掛かるのです。
哲学者パスカルが生まれたこの街にはオーベルニュ大学があり、有名な「黒い」教会堂があり、タイヤメーカー・ミシュランのお膝元でもあります。
メゾンドゥラキュルチュール、文化会館として建てられたこの劇場はどうやらシャルルドゴール空港第1ビルと同時期のもの。良質のコンクリートを贅沢に使い、床材はお約束の白大理石、壁面の叩きハツリや丸石を使ってのモザイクは職人の手間仕事を惜しまずに仕上げたものです。空間構成もまるでゲームのように複雑なので、慣れるまでは何度も迷子になりました。階段が多すぎるんです。
正面の入り口とロビーを基準階として、そこより半階分下がったレベルが楽屋口になっています。舞台フロアは楽屋口から1階半上がり、途中の1フロアが奈落面・オーケストラピット面。客席は3フロア分の1スロープに、さらに2フロア分の2階席があって都合5階建て。恐るべきはこの全客席5階層分のドアそれぞれに専用のアクセス階段が設けられているということ。ホワイエはまるで階段の見本市です。
これには別の「わけ」もあって、1階席の下、2階席の下、それそれが映画用ホールや会議室として適宜レンタルに出されているんですね。アクセス階段を適当に仕切ってやることで、劇場客席までの観客動線を交差させずに済む。こうしたレンタルスペースは楽屋フロアと舞台裏側の搬入口上部にもそれぞれあって、文化会館と言うより実体は会議場集合施設なんだと思います。学会や商農業大会に便利そう。
サービス動線も独自に確保したかったんだと思いますが、舞台の下上両サイド・前奥の都合四箇所にそれぞれ別途の通路が設けられていたり、非常階段も客席と舞台の両方に合計4本あったり。階段マニア・スロープフェチ(そんなカテゴリーがあるなら)の皆さんには是非ご覧いただきたいほど、与えられた空間と勾配に応じた独創的な階段が豊富に造られているんです。いやはや、さすがに昇り降りを堪能しました。
この建物の劇場部分は現在国立舞台(セーヌナショネール)として音楽・演劇・舞踊の各ジャンルの演目が月3〜4本掛かっているようです。それ以外のスペースでは独自の映画プログラム、青少年向けの教育プログラムを組んでいます。さらに貸し会場も持っているので、スタッフ組織は煩雑でした。端的には私達の公演には外部業者があてがわれ、小屋の職員は管理運営面の要所で顔を出すだけ。
山海塾仕込み中も映画上映やレクチャー・セミナーなどがのべつ行われ、隙を縫うように改装工事やらなんやらが続き、いささか慌しい雰囲気に終始しました。でも、仕込みに関わるスタッフ以外の明るい笑い声や、お掃除係の小母さんのお孫さんのニコニコ挨拶や、緊張感漂う若いビジネスマンが佇んでいたりするというのは、ちょっとない体験で新鮮。こんな運営がされる施設もあるんです。
(2004/3/5)
岩村原太の「万国文化中心報告」の扉へ
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