Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》04/5/17

万国文化中心報告 vol.122

●2004年5月  <その9>

レイキャビク●アイスランド国立劇場

 わずかに木のようなものが所々にあるほかは、岩と苔に覆われた見渡す限りの静かな景色が40分つづきました。スイスを発って6時間、大西洋の北端の島国アイスランドです。飛行場は海に近い殆ど起伏のない場所にあります。レイキャビクの町は湾に面し、山があり、丘があって、寒いものの穏やかな生活ぶりを想像させます。現在気温10度、日没が午前1時、同4時には夜明けとなり、ほぼ白夜です。

 静かな町です。劇場の屋上から眺めると町の中央の教会堂が唯一曇り空に臨むようにそびえ、祈りの力がここでの暮らしを支えている様子が実に重々しく伝わってきます。人口の約半分がこの町に集中し、北海道とほぼ同じ面積の国の住民の約90%が漁業とその関連産業に従事している中で、今会場の国立劇場のスタッフは殆どが何年も(照明チーフは36年)勤続していることなどを聞くにつけ、感慨深いです。

 町のあちこちでは新しい建物の建築も進んでいますが、古い住宅では1902年と銘板されているものもあり、ゆっくりとした国の歩みが堆積するように町に沈殿しているんでしょう。劇場は1950年から。座付きの劇団の公演が殆どのレパートリーで、この時期のアーツフェスティバルがむしろイレギュラー。常設の照明音響機材で日々の作業は進むわけで、今回は大変にいろいろとお願いをしています。

 照明部は四名、こちらの無理な注文にも笑顔で応えてくれてありがたいのですが、ペースが独特で多少気を使います。ドイツ(デンマーク経由)風、アメリカ(駐屯基地があり経済的にも多大の影響がある)風、の考え方がミックスされて質実剛健且つ合理的な結果だけを見るとソ連風な、そんな作業環境です。建物の外観はスターリン様式、周囲の波鉄板で外壁を固めた建物とは異質な、黒い権威的な建物です。

 客席は明るい木製パネルと紅の絨毯という豪華な内装、椅子にはゴブランで悲劇喜劇が織り出され、天井はコンクリートのレリーフがオーロラを表わしています。ロビーの壁には功績者の肖像画が掛かり、歌舞伎座並みの落ちついたムード。楽屋はこれまでの上演作品の舞台写真が所狭しと飾られ、演劇の殿堂とはかくあるべしと言わんばかり。窓から見える険しい山々の表情を忘れてしまえば、実に芸術中心です。

 件のアートフェスティバルは国を挙げての祭典で、別会場(シティーホール、その他)ではクラシックコンサートやジャズのライブもあるそう。長い冬が終わって気分も持ちなおした頃の開催ですから、盛り上がりもひときわなのでは。カナダのオタワやフランスのブレストを思い出す寒々しい町の風情も、これからの夏シーズンはきっと明るくて楽しいのだろうと思います。そうであって欲しいです。

 人々の青い瞳と柔らかい金髪は、先祖にバイキングを持つ証。日本の商社からは魚を買い付けに来ている人が多く滞在する中、私達のような芸能関係者は本当に珍しいと思われ、文化切込み隊のような気にもさせられ、与えられた時間をきりきりと使いながらですが、是非完成度の高い公演を実現したいものです。知らない国に居ながらも、いつものように仕事をしながらそのように思いました。

(2004/5/17)


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