Arts Calendar/Art's Report site/《Report from TABISAKI》04/8/21

万国文化中心報告 vol.128

●2004年8月  <その2>

スパイラルホール●あの時代のこと

 あの時代とは80年代後半、90年代始め頃のこと。思えばコンセントはT型だったし、ソースフォーなんて便利な灯具も無かったし、技術的には不自由な中で劇場ハードの実験が繰り返されていたように思います。演劇表現やダンス、コンサートの分野も明らかに派手な目に物を言わす演出が目立ち始め、小劇場ブームとかミュージカル流行りとか、いろんなことがあったのも、そんな時代。

 今回はdotsという京都造形芸術大学の卒業生たちが中心になっているパフォーマンスグループの東京公演に参加しました。このスパイラルホールはダムタイプも公演を打った場所で、ある独特の感慨を持ちますね。憧れの空間だったというのか、冗談みたいですけど遠い空間だというのか、現実味の無い本の中のスペースのように思っていました。難しい金属質の、ある意味その時代を代表していた雰囲気。

 ところが来て見ると違うもんですね、というより自分がすっかり変わっていたんですね。こじんまりして、手回りが良くて、金属質どころか布質の、非常に柔軟で親切な造りだったのでした。一体このギャップは何なんだろう、そんなに昔、自分の手に届かないものを神格化してしまっていたり、理想化してしまっていたり、つまらない想いで目が曇ったりしていたんだろうなぁと、呆れるやら可笑しいやら。

 その頃よくあったスタイルで、大型テナントビルのワンフロアがホールになっている計画、搬入出はエレベーターが頼り、階段は迷路のようになっていて、避難経路の確保に忙殺されることもあり、東京ならではの高密度建築とは知っていてももう少し何とかなっていたのではないか、なんて感じるのはその後の現代的なビル内劇場を知っているからですね。建物の構造も劇場施設も時代に殉じていたわけです。

 そう思って見直せば、実にユニークに設計された名スタジオだと思います。直方体のその間口と奥行き・タッパのプロポーションの良いこと、調整室部分の張り出した中2階のバランスの良さ(スタジオ空間に違和感が無い)、天井の黒さと壁面の明るいグレーによる緊張感、デザインの力は時代を超えて残り伝わるものです。床のフローリングはどうか俄かに判断できないけれど、素敵な空間でした。

 ロビーが絶妙にバブリーなんで、この内部空間自体がストイックに感じられるのも悪くないですね。青山の一等地に立っているこのビル全体のふわふわした遊離感が、出し物によっては美味しくもあり厳しくもあり、やはりこれは自分が育った時代の空気をシニカルに思い出すから時に切なくなったりするのかもしれないです。トウキョウの、かつての、時代を象徴した(と思っていた)スパイラルホールです。

 今通っている大学にもこんな空間が実現してしまっているのは確かなことで、それならばきっと、日本中にこのホールを範としたスタジオが建っているのも容易に想像できるわけで、オリジナルの持つ迫力ってこんな場合にでもあるもんなんですね、凛とした前向きの空気を強く漂わせている素晴らしい設計だと思います。もしまだご覧になったことのない方がいらっしゃれば、是非に、とお勧めしたいです。

(2004/8/21)


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