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原美術館 ソフィ・カル「限局性激痛」展
2月27日まで。
原美術館公式ホームページ⇒原美術館
原美術館で開催中のソフィ・カルの展覧会。ずっと気になりながらようやくでかけてきました。昨年の11月からの長い会期も終了間近。エキサイティングな展覧会という評判のせいか、かなりの賑わいです。私も原美術館は随分ひさしぶり。1938年に建てられたバウハウス様式の建物は、大きな窓とタイル張りの外観が特徴で、ゆるやかなカーブを持つ展示空間、ジャン=ピエール・レイノーや宮島達男の常設展示など、現代美術に興味のある人にとっては一度は訪れてみたい美術館のひとつではないでしょうか。
ソフィ・カルの日本での初個展「限局性激痛」は、この静かでモダンな美術館の空間にぴったり。まるで身体の一部につきささる痛みを連想させるタイトルが示しているのは、彼女自身の失恋の痛みです。
ソフィ・カルは1953年生まれのフランスの女性。写真や文章で自らの行動をドキュメンタリータッチで語る手法の作品で知られていて、ここのところ映画作品の公開や日本語訳の書籍の発行などが続いて、ちょっとしたブームになっているようです。そういえば昨年8月の世田谷美術館「パサージュ:フランスの新しい美術」展では彼女のデビュー作が公開されていました。全く知らない人を含む27人に自分の部屋のベッドで眠ってもらい、それを写真に撮影、さらにインタビューした文章と合わせて展示するという、フィクションとドキュメンタリーの境界を撹乱するような作品が印象的でした。
「限局性激痛」は、彼女が1984年に日本に短期留学した際の失恋の思い出を綴るもの。三部構成になっていて、一階の展示はパリを出発してから日本ですごした92日間を写真や手紙、書籍などでたどりながら、彼女の独白がところどころ入り込むというもの。最後はパリに残してきた愛する男と落ち合うことになっていたニューデリーのホテルの一室の写真。その部屋に男は現れなかったのです。つまりこの92日間は、「愛する男に捨てられてしまう悲劇」という結末を迎えるまでの行程のカウントダウン!
二階の一室はこのホテルの部屋を再現したもの。ツインベッドのひとつは人の痕跡がない。男が別れを告げた赤い受話器が鋭い痛みを伴って目に焼き付きます。
そして最後はこの失恋体験を他者に語り続けた「言葉」の展示。グレーの布に刺繍された彼女の言葉が、はじめは白い刺繍糸で綴られ、やがて地色と判別できない色になり、失恋の痛みから回復していく過程が表現されている、というわけ。緻密な計算に基づく展示なのでしょう。ただし、全部読み通すにはかなりの疲労が伴います。
見終って、これは単なるドキュメンタリーではない気がしてきました。もちろん、作家の内面をさらけ出す、自身を主人公に仕立てた一遍のストーリーに感情移入することも可能でしょう。でも、私にはどこか「これはどこまで真実なのだろう」という疑問がつきまとうのです。すべてが虚構の世界なのかもしれない、そうであっても不思議ではない、という感覚。これはアーティストと私たちのスリリングな駆け引きなのかも。ソフィ・カルの仕掛けた確信犯的なゲームの迷宮に入り込んで、何を感じるのか。その答えは、きっとこの展覧会にでかけた人たちの数だけ存在するのだと思います。
彼女のスリリングなゲームには、人を中毒症状に陥れる危険な魅力があるみたい。
もっと彼女の作品を見てみたい、読んでみたい、という衝動にかられています。渋谷ユーロスペースでは2月25日まで彼女の監督作品「ダブル・ブラインド」がレイトショウで公開されているそうです。いったいどんな仕掛けが?
Feb. 17, 2000 Sumitani
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