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写真展レポート

東京都写真美術館 「アーヴィング・ペン全仕事」展

Exhibition Report / IRVING PENN -A career in Photography-at Tokyo Metropolitan Museum of Photography

会期:1月23日まで 

開館時間: 10:00〜18:00 (木・金は20:00まで)
休館日: 月曜日
料金: 一般600円、学生480円、小・中・高校生300円

HP: http://tokyo-photo-museum.or.jp

恵比寿にある東京都写真美術館。写真好きにはたまらない、魅力的な展覧会が企画されます。今開催中なのは「アーヴィング・ペン全仕事」展。「全仕事」とはなんともわかりやすい。この展覧会は1997年にシカゴ美術館で開催されて大好評だったものの国際巡回展だそう。ということは「全仕事」は英文のタイトル "A Career in Photography"を訳したものなのでしょう。そのものずばり、ペンの仕事の全てがここにあり、という展覧会。開館5周年、おしゃれな恵比寿ガーデンプレイスの5周年記念でもあります。

美術館のエントランスには今まで開催された展覧会のポスターが展示されていて、眺めているだけでも楽しい。え、こんな面白そうなのやってたの?とか、あ、これすごくよかった、とか写真好きな友人たちとわいわいおしゃべりしながら展覧会場へ。しんと張り詰めた展覧会も魅力的ですが、アーヴィング・ペンはおしゃれなファッション写真のイメージがあるせいか、会場も華やかな雰囲気の若い人たちでいっぱいです。

アーヴィング・ペンは1917年生まれ、今も6人の助手とともに制作活動を続けている「アメリカの誇る偉大な写真家」(パンフより)ですが、「私はただのフォトジャーナリストだ」と謙虚に語るのだそうです。出発点は雑誌『ヴォーグ』のアートディレクターで、気取ったファッション写真家たちに提案したアイディアが相手にされず、困っているうちに自分で写真を撮り始めたということ。それが写真家アーヴィング・ペンの誕生、とはまるで映画のストーリーみたい。

展覧会場は大きく二つに分かれ、前半はアフリカやオーストラリアの少数部族の人たちを写した作品に続いて、「静物」「肖像」「ヌード」「ファッション」「旅行」の5つのグルーピングで代表作が紹介されています。後半は「作家の美意識や造形的なイメージ」によって、キュレーターがジャンルや撮影年にとらわれず構成したもの。代表作をたどっておしまい、という展示方法とは違って、同じジャンルの作品にも別の方向からアプローチできる面白さ。

ペンの写真の特色は独特の「ライティング」と「空間構成」と説明があります。たしかにどのジャンルの作品を見てもペンの独自の美学が貫かれ、けっして控え目ではない、どこか不遜なエレガンスが漂っています。なかでも私が面白かったのは、二面の可動壁で囲まれた空間に押し込まれた著名人たちのポートレートと、三宅一生のコレクションを撮影した作品。

著名人の中には、マルセル・デュシャンとかトルーマン・カポーティとかアナイス・ニンなどなどが。シュールな作品や「ティファニーで朝食を」のような有名な小説、映画「ヘンリー&ジューン」の原作となった「アナイス・ニンの日記」など、ポートレートのキャプションを見ると反射的に彼らの「功績」を思い浮かべてしまいますが、そこにあるのはペンのスタジオのそっけない空間にたたずむひとりの人間の姿。
しかし単なる肖像写真とは違う気がします。ペンは彼らに決して媚びることはしないのだけれど、彼らの存在そのものに最高の敬意をはらっているのだと思うのです。カポーティのちょっとキザなポーズや、アナイス・ニンのあまりにも美しい目を前にして私たちが感じる優雅な圧倒感は、ペンが被写体に向かった時の緊張感そのものかもしれません。

三宅一生のコレクション写真もとても面白い作品が並んでいます。三宅氏は1986年の春夏コレクションからペンに撮影を依頼しているということですが、撮影の現場に立ち会ったことがないのだそう。ペンもまたショーを一度も見ていない、と図録に書いてあります。「私の服を見て、声を聞き、それを独自のやり方で返してくれる人、自分自身が堕落しないよう厳しい評価をしてくれる人を必要とし、それを求め続けた末に巡り合ったのがペンさんだった」と語るデザイナー。それに応えるように膨大で緻密なイメージスケッチやデータのスタディを重ねて撮影する写真家。これはファッションという媒体を通して二人のアーティストの価値観が重なり合う、希有なコラボレーションといえるのではないかしら。

独特のプラチナ・パラディウム・プリントもペンの世界を楽しむ時のキーワードのようです。ドローイング用の紙に感光液を塗って印画紙を作るという独特の技法で、美しく深みのある階調が表現できる、と説明にあります。『吸殻』シリーズの展示では、一つの作品をいろいろな方法のプリントで見比べることもでき、それぞれの魅力がなるほど、よくわかります。ペンはこの技法が気に入ったらしく、過去の作品も数多くプリントし直したということ。あまり今までプリント技法に注目したことがなかったので、これは発見でした。他の写真家の展覧会でも注目してみよう。

展示の最後は近年の『頭蓋骨』シリーズです。「死を想え」というわけでしょうか。哲学的で完璧主義な写真家人生が浮んできて、この展覧会を見る前と後ではペンに対する印象が随分変わりました。うん、大収穫。面白かった!

ミュージアムショップには過去の写真展の図録のバックナンバーがずらり。あれこれ手にとっているとあっという間に時間が過ぎます。そしてこれからの企画展スケジュールを見て、おお、これもでかけなければ。「さよなら20世紀 カメラがとらえた日本の100年」(3月22日から)。

20世紀最後の年、新しい千年紀の始まりの年。今年もいっぱい、美術館にでかけよう! そしていっぱい発見しよう、まだ見ぬ美しいものたちを! アーツカレンダーの読者の皆さんの幸多い一年をお祈りします。ことしもどうぞよろしく!

Jan. 7, 2000 Sumitani


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