日本橋三越本店7階ギャラリー
アンリ・カルティエ=ブレッソン写真展 「Landscape / 二度とない風景」
Exhibition Report / Henri Cartier-Bresson Exhibition "Landscape"
会期: 1999年10月12日(火)〜10月17日(日)
彼の写真との最初の出会いは今から丁度10年前。革命200周年を祝うお祭りで沸き返る夏のパリに一人旅をした時です。忘れもしないポンピドーセンター。シテ島のノートルダム寺院を訪れた後、地図を片手にぶらぶら歩いて行った気がするのですが、記憶違いかもしれません。マチスの色彩に酔い、ジャコメッティの鋭敏なフォルムに驚き、そしてモノクロームの写真の魅力にとりつかれた場所です。
97年にBunkamuraで「ポンピドー・コレクション写真展/パリの写真家たち」という展覧会が開かれたとき、ひさしぶりに出会う作品の数々に興奮を覚えたものですが、中でもアンリ・カルティエ=ブレッソンの「サン=ラザール駅裏」という作品は忘れられない一枚でした。水たまりをさけようとジャンプする男性の靴のかかとと、水面に逆に映った影のかかとの間がほんの数ミリ。カメラが捕らえた「一瞬」がそこにあります。あ、あの時あそこにあった写真、とおぼつかないフランス語で心細かった一人旅のパリの午後がよみがえるようでした。
今回の展覧会では、ブレッソン自らが選んだ「ランドスケープ」をテーマとした作品が100点、1930年代のものから今年撮影された最新作までが公開されます。「サン=ラザール駅裏」も並んでいました。彼の写真には二十世紀の出来事を証言するようなルポルタージュ作品もたくさんありますが、彼自身が人生を振り返るように選んだ「二度とない風景」の写真は観る人の胸にせまる美の世界です。
たとえばポスターに使われているギリシャのシフノス島で撮影された一枚の写真。白い壁に強烈な陽射しが反射する中、建物の間の階段を駈けあがる一人の少女の姿。視界から消えてしまう前の一瞬の「駆け上がる姿」が、美しい光と影のパターンの中で捕らえられています。彼の眼の延長、というライカを構えて「その時」がやって来た瞬間をのがさない。そしてそこにあるのは絶妙の幾何学的な構図とバランス感覚が生み出す造形のリズム。これ以外にありえない、という美しい写真です。
たまたま会場で行なわれていたギャラリートークでもインタビュー番組でも、彼は若いころ絵画を学んでシュールレアリズム(超現実主義)に強く影響を受けたと強調されていました。インタビューで、「現実を超えた何かの存在を、こちらから望んではいけない」と語っていたのが印象的です。「向こうからやってくるものをつかむ、それを待つ、ということだ」、「写真は瞬間の喜びだ、決定的瞬間を待って、『それ、よし!』と撃つんだ」と射撃にたとえていたことも。
そしてやはりフォルムと内容は切り離しては考えられません。そこに映っているのは、港の鉄柵にぶら下がって遊ぶ少年、凍った湖で釣りをする人たち、ナポリの丘で肩を抱き合う恋人たち、日の出に祈りをささげるインドの女たちなど、「二度とない風景」の中で輝く「生きている」姿たち。最新作は、草の上に森の樹々の影がはるか彼方に吸い込まれていくように並んでいる写真ですが、そこにはライカを構える彼自身の影も映っています。「二十世紀の証言者だなんてどうでもよいことだ。私は生きている、ただそれだけのことです。」と語った写真家。生きている、今ここにいる、という実感がわたしたち観るものの胸に深く迫ってくる、そんな写真展でした。
100点の写真を一気に見終えて、大満足です。出口のところでは図録だけではなく、たくさんの写真集が並んでいます。ブレッソンばかりでなく、今では40人を超えるというマグナムのメンバーの写真集などもあって、目移りしてしまいます。"DESERT"という砂漠をテーマにした写真集、「美術館に行こう!」という美術館に訪れた人をとらえた写真集、欲しくなるものばかりですが、今回は図録を買ったので我慢、我慢。秋の一日、神保町や青山の洋書店めぐりをするのも素敵です。その時の楽しみにとっておこう。
すこし残念なことがふたつばかり。デパートの中の会場なので、おしゃれな余韻にひたるのはちょっと無理かも。壁をへだてた催事場では諸国味巡り。もうひとつ、どうしてこんなに会期が短いのでしょう? プリントを保護するためでしょうか? たくさんの人にブレッソンの魅力を知ってもらいたいのだけれど。
2000年の2月から3月にかけては京都にも巡回されます。
帰り道、駅のフォトスタンドで白黒フィルムを一本買って帰りました。久しぶりに愛用のお手軽一眼レフを取り出してレンズを磨いてみます。気に入った作品が撮れたらほとほとに投稿します! ご期待下さい!
Oct. 13, 1999 Sumitani
「Sumitani World」の扉へ
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