展覧会レポート

世田谷美術館「煌めくプラハ −19世紀末からアールデコへ−」展

Exhibition Report / PLAHA at Setagaya Art Museum

会期:   1999年10月2日(土)〜12月12日(日)

開館時間: 10:00〜18:00 (入場は閉館30分前まで)

休館日:  毎週月曜日

料金:   一般1200円、高校・大学生900円、小学・中学生および65歳以上600円

世田谷美術館ホームページ:世田谷美術館へ http://www.setagayaartmuseum.or.jp/

この秋、「チェコ共和国芸術祭1999」の参加イベントが国内各地で開催されています。舞台ではオペラや音楽・人形演劇が。ヴィジュアル・アートではチェコといえばすぐ連想されるガラス関連の展覧会がいくつも、それからアール・ヌーヴォの代名詞のようなアルフォンス・ミュシャの展覧会も。

そして19世紀末から今世紀の初頭にかけて、プラハで展開した造形芸術を紹介する総合展である「煌めくプラハ−19世紀末からアールデコへ−」展が世田谷美術館で、今、開催されています。

この展覧会では「花の様式」といわれるアールヌーヴォから、過激ともいえるチェコ・キュビスムを経てモダンで華麗なアールデコヘ、というチェコ芸術の流れを体系的に見ることができるようなのでとても楽しみにしていました。

爽やかな秋晴れの一日、ドライブがてら東名をとばして用賀インターをおりると左手に砧公園のまぶしい緑が広がります。サンドイッチとポットには熱い紅茶を詰めて、ピクニック気分で世田谷美術館へ!日曜日の午後、美術館は大変なにぎわいです。

期待通り、絵画・彫刻をはじめ、ガラス、陶磁器、建築、家具、モード、宝石、写真など、幅広いジャンルにわたる作品の総数は約490点!ひとつひとつをじっくり見ているとあっという間に時間が過ぎていきます。いったい何を語ればよいのだろう、と途方に暮れてしまうほどの圧倒的な質と量ですが、アールヌーヴォやアールデコは日本人には広く親しまれている分野だと思うので、今回はあまり耳慣れない「チェコ・キュビスム」のことを少し。

分厚い展覧会カタログによると「20世紀ヨーロッパ美術史における、チェコの特筆すべき貢献は、キュビスム建築と工芸であるといえる」ということです。はじめて聞くキュビスム建築。会場ではヨゼフ・ホホール、ヨゼフ・ゴチャール、パヴェル・ヤナークなど耳慣れない響きの建築家の名前が並びます。なかでもヨゼフ・ホホールの「ホデック・アパートメント・ハウス」の写真(1913)は強烈です。建物の細部で交差する斜線が鋭角を成し、その広がりのリズムと意図された明暗がとてもダイナミックな印象です。キュビスムの原理を建築に取り入れた、という意味が一目瞭然。これは現存する様式なのでしょうか?

そしてこれもはじめて聞くキュビスム陶器。チェコ・キュビスムの理論家というパヴェル・ヤナークのデザインした陶器類はなんとも魅力的です。球体と幾何学模様が交差する立体、といえば想像がつくでしょうか? 実用というよりは装飾品として作られたという、蓋付きの小箱やコーヒーセット。コーヒーセットには「ジグザグ」というタイトルが付いています。ヴラスチラフ・ホフマンという舌をかみそうな名前の建築家のデザインした不思議な形体の灰皿や花瓶。用途を意図しない実用品の美しさ。

あ、これは以前国立近代美術館の工芸館で見た「工芸オブジェの系譜」展の感激とおんなじだ。つまるところ、私の好み、ということです。繊細・華麗かつモダンなジュエリーあり、珍しい構図の裸婦の写真あり、あふれるばかりの「煌めく」美のオンパレード、一番気に入った作品がどれだったのか、カフェのメニューに加えられたチェコビールを片手に気のあう人達と語り合う至福の時間を是非、たくさんの人が経験してくれるといいな。

さてさて、プラハで忘れられないのが、大好きな日本画家山本直彰さん。何度も紹介させてもらいましたが、彼は平成4年度文化庁の芸術家在外研修でプラハに滞在、Doorシリーズの連作を展開しました。

98年の秋、横浜美術館で行なわれた「社会主義以後のチェコの美術の現状」という講演会での、ご自身が滞在したモルダウ川のほとりのアパートメントや、スロヴァキアとチェコの分離にあたる93年1月のプラハの変革の季節の様子のスライドを思い出します。ちょうど、10月29日(金)まで銀座のギャラリーイッツ(TEL.03-3563-2822)で第10回山本直彰個展が開かれています。あまり大きなスペースではありませんが大作1点、あとは新作の小品が展示されています。

ずっと追求を続けているDoorも、同じところにとどまることは決してなく、今回の新作はその新たな色彩の展開に思わず息を呑む思い。金箔や岩絵の具の質感が「日本画」を強く意識させますが、一段と抽象の度合が進み、作家の内面へ奥ふかく沈殿していくようなその画面は「白」。静かで、深く、そして冷たく、哀しい。向かい合いたいと強く願う相手が、ぷいと横を向いているような、どこか暴力的な哀しさを感じます。

華やかなプラハ展とはあまりにも対照的ですが、過去の延長にある現代のプラハを体験した日本画家の「今」を見てみるというのもexcitingでは、と思います。銀座方面におでかけの際には是非、覗いて見て下さい。

さて、もうひとつおまけ。世田谷美術館には「タノシサハッケンクラス」というとてもユニークな普及プログラムが年間を通して開催されています。10月24日から4回シリーズで小学校低学年向けに「只今参上、アソビの達人」という講座が始まりました。リーダーは現代美術家の横尾忠則さん。いったいどんなことを?と興味をもたれる方も多いと思います。このプログラムを見学する機会を得ましたので、これからすこしずつ報告していこうと思います。初回は参加した子供とその親が別々の場所で絵を描きました。テーマは子供は「自分が大きくなったらなりたいもの」、親は「子供に大きくなったらなってほしいもの」。それぞれ空想の世界で一時間アソビます。そして親子で皆の前で発表。その時はじめて自分の親(子)が何を描いたかを見る、という趣向でした。2回目以降はどんな展開になるのか楽しみです。

Oct. 24, 1999 Sumitani


Sumitani World」の扉へ

無断転載禁止 掲載:アーク編集室