Exhibition Report/PASSAGE : NEW FRENCH ART at Setagaya Art Museum

展覧会寸評

世田谷美術館「パサージュ:フランスの新しい美術」展

9月19日まで開催中

開館時間:午前10時−午後6時
休館日:9月13日

世田谷美術館ホームページ: http://www.setagayaartmuseum.or.jp/

大きな美術館で開催されるフランスの美術展というと、ルーブルやオルセー、ポンピドーなどの名前を冠して印象派やキュビズムを概観するものが多い気がしているのは私だけでしょうか。それは、フランスの「現代美術」が魅力的ではない、という逆説的な証拠なんだろうか。

今年の4月から5月にかけて、短い期間でしたが、渋谷Bunkamura Galleryで開かた「パリのインスピレーション」展は、そんな気分を吹き飛ばす明快な展覧会でした。ビデオやデジタル画像作品が提示するイメージの世界と、どこかアナログな手触りを感じさせるインスタレーションのもつ身体的感覚が不思議と溶け合って、「現代美術」に向き合う時の新鮮な高揚感にあふれる空間を楽しめました。展覧会パンフには「いつの時代もパリは新しい芸術を創造するエネルギーにあふれています」とあって、うん、納得!

そしてこの夏開催中の「パサージュ:フランスの新しい美術」展。世田谷美術館の広い展示スペース、しかも普段は常設展示の2階フロアもすべて使って行なわれていると聞いて、期待が高まります。秋の気配が迫る砧公園はブローニュの森(のつもり)、しばしパリのパサージュ(小路)散歩と洒落込むことにします。

解説を読むと passage とは、もともとパリでよく見かける大通りの間をつなぐ小路に屋根のついたもの、とありますからいわばアーケードみたいなものでしょうか。また、ウォルター・ベンヤミンの「私的な領域が同時に公的な領域になりうる場所」という言葉も引用されています。50年、60年代生まれの12人の作家達の強烈な個性が、内面にこもることなく外へ、街へ、と向かっていく。その現場にぶらりと足を踏み入れる、そんな展覧会。

広い展示スペースを生かした面白い作品に出会います。まず一階フロアの中程に、ドレスの形にくりぬかれた壁が何層も連なったインスタレーション。1962年生まれのビリ・ビジョカの作品です。この壁の中を観客は靴を脱いで通過することができます。なぜ靴を脱ぐのか?答えは床に水が張ってあるから、です。一瞬、えっ?と思いますが、人影もまばらな展示会場、思いきって裸足になって壁をくぐりぬけてみます。ひやり、と水の冷たいこと、ぴちゃぴちゃという水の音の心地よいこと。薄暗い通路の真ん中部分の床には天井のプロジェクターから映像が映し出され、よく見るとパリの地下鉄の様子。車両の最前列で撮影した映像が、ゆらゆらと揺れる水面に延々と映し出されます。じっと足元の水面を眺めていると、地下鉄に乗ってこれから運ばれていくのは一体どこだろう、と不思議な感覚に陥ります。後から人が入ってきて水面が揺れ、ふと目を上げると、その人も映像を見て驚いた様子で私の目をのぞきこみます。手に靴を持って、同時にこの不思議な体験を味わって、なんだか共犯者のような気分。言葉をかわすことなく軽く会釈して、壁を通過することに。

ミシェル・ブラジー(1966年生まれ)の作品も世田谷美術館の展示室に合わせて作られれた新作だそうです。カビや泡、発芽させた豆など、形が変化したり成長していくものを使って日常とは異なる空間そのものを作品にする作家で、今回は展示室の窓の外側に水を流して苔の一種を増殖させています。テラス部分に出て、その窓を通して部屋の内部を見ることができる仕掛けになっているのですが、私たちの視線が通過するのは、窓ガラスでもない、壁でもない、その不思議な増殖する植物の生体。

そして一階フロアの最後の部屋は、ちょっと度肝を抜かれます。ホアン・ヨン・ピン(1954年生まれ)の作品。会場案内図に「蛇の剥製が台の下にありますのでご注意ください」と書いてあります。・・・ヘビだけじゃなかった!(何がいるのかは、どうぞ会場で。)中国に生まれてパリに在住しているというその作家のエネルギーが、部屋全体に充満しているようです。中国と西洋、破壊と再生、正反対のベクトルがぶつかりあって生まれるエネルギーなのでしょうか。

他の作家達のコーナーもゆっくりとまわります。街とか横断・通過という意味も持つ「パサージュ」をキーワードに、とにかくこの「フランスの新しい美術」を楽しまない手はありません。理想やイデオロギーだけでは生きていけない現実をあるがまま受け入れて、いまここにいるという感覚、いまここにあるものに触れたいという感覚が表現されている。たしかに「美」というものは置き去りにされている気がするけれども、「欲望」というエネルギーに満ちている。そんな印象の展覧会でした。

「パリのインスピレーション」展と「パサージュ」展はそれぞれ12人の若いフランスの作家の作品で構成されていますが、重なっているのはミシェル・ブラジーだけ。今という時代を表現するフランスの作家たちの層の厚さがうかがわれます。

展覧会場を出てミュージアムショップの横の掲示板で、これから開催されるいろいろな展覧会のポスターを眺めます。魅力的な展覧会が目白押し!芸術の秋!

Sumitani Sep. 4, 1999


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