Exhibition Report / RELEASING SENSES at Tokyo Opera City Art Gallery

展覧会寸評

東京オペラシティアートギャラリー開館記念企画展
「感覚の解放」展

会期: 1999年9月9日(木)〜11月21日(日)
開館時間: 12:00〜20:00 (金曜日は21:00まで)
休館日: 毎週月曜日(祝日の場合は翌火曜日)
料金: 一般1000円、大学・高校生800円、中・小学生500円

今年の4月、大好きな難波田龍起展を見に行った東京オペラシティー。9月に本格的なギャラリーがオープンすると聞き、随分先の話だなと思っていたのですが、もうその9月。開館記念の企画展「Releasing Senses -- 感覚の解放」展が開かれています。さっそく出かけてみました。

新宿からひと駅、初台にある東京オペラシティーは、「芸術・文化、ビジネス及びアメニティ(商業)」の3つのゾーンからなる大きな一つの街、「劇場都市」というコンセプトで開発が進められてきたということ。マルチメディア・アートを取り上げるNTTインターコミュニケーションセンター(ICC)や、タケミツメモリアルとリサイタルホールという2つのコンサートホール、そしてこのオペラシティーアートギャラリー。満を持しての美術館の開館、ということでしょう。

さて、この展覧会は4人の作家の作品で構成されています。まず会場に入ろうとして足元を見るとびっくり、CDが床一面に敷き詰められています。13,500枚あるそう。アメリカのクリスチャン・マークレーの作品です。「サウンドをイメージする」空間ということですが、どうでしょう。CDの上を歩くことでこころを解き放つ響きを聴くことができたかどうか。いみじくもタイトルが意味深です。《エコーとナルシス》。自分の姿に酔いしれるナルシスと、彼に恋をして姿を失った森の精エコー。作家の自己満足で終ってはいないだろうか?観るものの前に姿を見せない作家は一体何処にいるのか?

次のコーナーはオーストリアのマルティン・ヴァルデの作品。《ハンドメイツ》と《結んでほどいて》は両方とも触れることができます。《ハンドメイツ》は手に握れる大きさの黄緑、紫、黒の3色のゴム風船。ぐにゃり、という感触を期待すると裏切られます。《結んでほどいて》は展示室内に詰まれたロープの山です。ここでは観客はまさにタイトル通りの行為を体験できます。

村岡三郎の作品《エントランス》は一面の岩塩と鉄、銅、ガラスのオブジェ。パンフには「作家の体温が銅の柱に毎日送られます」と書いてあるのですが、意味がわかりません。この作品をみて、「作家の体温と身体の感覚」を感じることは私にはできませんでした。

アーニャ・ガラッチオの《望みを持って》は、ロウソクが並べられたリングが天井から吊り下げられたもの。会期中燃え続けるロウソクがリングから床に垂れ落ちていきます。《ミルキーウェイ》は壁面に14キロのチョコレートが塗られたもの。いずれも「匂い」を体験するという意図を持った作品のようです。

そして、最後にクリスチャン・マークレーのビデオ作品が流れていて、おしまい。

たしかにパンフにあるように「見て、触って、感じる」展覧会でしたが、何を感じることができたでしょうか?こうした現代美術の展覧会は決して嫌いではないし、先日の世田谷美術館のパサージュ展などはとても面白く感じる展覧会でした。しかし、この「感覚の解放」展がもうひとつ魅力的ではないのはなぜだろう?

まずひとつは、オリジナルな視点があまり感じられないこと。カタログを見ると、作家の過去の作品をそのまま持ってきたりアレンジした作品が多いことに気付きます。《エコーとナルシス》は92年に発表された作品です。「今、ここにいる」ことを表現していない「現代美術」とは一体何だろう。

もうひとつは「感覚を解放」するというテーマそのものが曖昧な気がすること。見る者の五感に直接訴える、という意味なのか、「見る」ことによって感覚を解き放とう、という意味なのか。つまりここでいう「感覚」が sense なのか sensation なのか。ここは聴覚や嗅覚や触覚を「解放」して美術と向かいあう場であることはたしかだけれど、私たちが期待しているのはそこから先の「わくわくするこころの昂ぶり」ではないのかしら。そして、この「こころが昂ぶるという感じ」が「サンサシオン(感覚)の解放」ということだと思うのです。アートに向かいあうことでこころが解き放たれる心地好い時間と空間、それを「感覚の解放」展で私たちは手に入れることができるかどうか。

横浜美術館のカタログを読むと、「サンサシオン」はセザンヌを語るときのキーワードのようです。セザンヌ展や近代美術館工芸館の工芸オブジェ展を見た後でこの「感覚の解放」展を見ると、「少し振り向いてみるという視点」が今、求められているような気がしてなりません。それはあたかも、袋小路に行き当たった時、ひとつ手前の分かれ道に戻ってみると可能性が2倍になるのと同じことといえるかもしれません。もうひとつ、もうひとつと確かめながら戻ってみることで可能性は無限に広がるのでは、とも思えます。

そんなことを考えながら新しいギャラリーをゆっくり回ります。サンクンガーデンを取り囲む洒落た空間は、若い人たちの間で話題になっているのでしょう、平日の昼間というのにおしゃれな雰囲気の学生さんたちでいっぱいです。「今」を楽しむ人たちがこの展覧会をどんな風に受け止めたのか、聞いてみたい気がしました。

少し疲れて帰った夜、ゆっくりチェロでも聴くことにします。ヨーヨー・マのCDを一枚買いました。「シンプル・バロック」というタイトル。古楽器の響きが新鮮でほっとします。そう、少し立ち止まって、少し後戻りして、そして見えてくる新しい世界。

Sep. 19, 1999 Sumitani


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