Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》Scandinavian Connection 2002 May

vol.90


Scandinavian Connection 2002 May



2002年5月25日
東京・南青山Body & Soul

プッテ・ヴィックマン(Cl)
ウルフ・ワケーニウス(G)
クラーク・クローナ(P)
ペートゥル・イースランド・オストゥルンド(D)
森 泰人(B)


1年前に、次は2002年の5月と聞いていて、その時に向けて様々に調整していたにもかかわらず、今回の「スカンジナビアン・コネクション」は2ステージのうち、前半しか聴くことができないのがライブ前から悔しくて悔しくて。

ライブ前にチューニング、という雰囲気でプレーヤーがばらばらとステージに集まってくる。その様子を横目で見ながら、悔しさを紛らわすためのおしゃべりを中断。全員が定位置に着く前に照明が変わる。いろんなライブハウスの中でも、Body&Soulの照明がいちばん好きだと思う。紅茶やブランデーに近い赤みは温かく、落ち着いてしまう。人の表情を窺うことができる程度の灯りは、暗いという雰囲気はなくて、とても居心地のいいリラックスした空気をつくり出している。

プロフィールによると、今回のメンバーはいつにも増してすごい。日本でいえば「人間国宝」クラスのクラリネット奏者プッテ・ヴィックマンが、そこでにこにこしながら、楽器に添えた指をばたばたさせながら、演奏を待っている。頂点を極めた人特有の、周りのものに緊張感を抱かせない柔らかなオーラに包まれている。

森さんにしても、他のプレーヤーにしても、プロフィールだけで判断すれば、そんなに気軽に無防備にその辺歩いてていいんだろうか?というような人たちだ。ライブ前のラフな雰囲気から、連れていく友達にどんなに「すごいんだよ!」と言っても、なかなかわかってもらえないけど、1曲聴けば「…すごいね」と溜息まじりに、やっと返ってくる。世間にはプロフィールと実像が噛み合わない人もいるけれど、「スカンジナビアン・コネクション」でやってくるプレーヤーは、もうちょっと言ったほうがいいんじゃないかと思う。

1924年生まれ。78歳のプッテ・ヴィックマン。この人の来日というのが今回の大きなトピックスであるのだけど、前に飛び出してくるような目立つプレイはしない。自由気ままに他のプレーヤーに絡んでくる様子がいろんな意味で「慣れ」を感じさせる。さらさらと演奏して、皆を見守って、でも結局プッテ・ヴィックマンの手の上で、ライブが進行していたように思う。神通力とでも言えそうに目だけでタクトを振っていたようで。クラリネットがメインのジャズライブは、たぶん初めて。ビッグバンドでも、主役になってるのはあんまり聴いたことがないし。あらためて「ああ、こういう音のする楽器なんだ」と思う。熱いガーシュインであっても、涼やかなフレーズ感を失わない。岩間からわき出す源流のように繊細で、そこから成長する大河のように雄大で息の長い音。涸れることのない澄み切った美しい水の流れ。ライブという熱さを冷まして、水分をオーディエンスの身体の中に届けてくれたようだ。事実、ライブから数日たっても、ライブがじわじわと染みてきている。

ギターのウルフ・ワケーニウスは、黒い服に黒いキャップをかぶってエレキギターを持つ。ハーレー・ダビットソンを乗り回しているような風貌で、ものすごく優しいギターを弾く。いままで聴いていた「スカンジナビアン・コネクション」のライブから、エレキギターはどうしても想像できなかったのだけど、この人の演奏ならば、納得がいく。エレキでなければならない、と思う。繊細な音を重ねて紡がれる曲は、職人的であり、やはりそれは男性的だ。

ステージの位置関係とグランドピアノの長さで、遠くにしか見えなかったクラーク・クローナ。充分に聴くことができなかったのが残念だけど、届いてくる音の美しさは格別だった。その金髪の姿から想像するに難くない美しいピアノであるけど、甘さよりクールさが勝っている。ものすごく甘いバラードを弾いてもらいたいなと思う。絶対に一筋縄ではいかない面白いバラードにしてくれると思うんだけど。

ここ何年か、ライブに行くと耳と目がドラムを追ってしまうようになったのは、「スカンジナビアン・コネクション」がキッカケだ。森さんが連れてきてくれるドラムは、いつも本当にかっこいい。ペートゥル・イースランド・オストゥルンドも、やはりそうで。半分はオーディエンスの気持ち、みたいに楽しげに、こちらの反応を楽しみつつドラムセットに向かう。出てくる音はタイトで大らか。気軽にやっているようで、というよりも自然体で、他の4人の演奏を他人事みたいに楽しんでる。

セットの中で、今どのタイコを叩くかというセンスや、スティックやマレットの選び方など、1つの曲の中で選択肢は無限大にあって、しかもそれを一瞬で判断して確実に演奏するのだから、ドラムは見て聴いて楽しい。裏方のようでいて、かなり大きな部分でライブを演出できる楽器だと思う。リズム・キープの確実さは言うまでもないが、好き嫌いでいえば、響きがタイトか緩みのある音かという部分かもしれない。私に限って言えば、スウェーデンのドラマーに、はずれはなくてライブのたびに、ファン!という人が増えていくばかりだ。

1stステージでは、楽器のバトルや掛け合いがさらっとしてて、ちょっと物足りない部分もあったのだけど、その分、「森さんフューチャリング」が多かったと思う。森さんのソロの時に向けられるメンバーの視線。それは森さんがスウェーデンで頼りにされてるという感じと、これまでのツアーでメンバーが抱いた充足感に溢れているようで、見ている私が嬉しくなった。確かに森さんのベースは、頼りがいのある太く強い音。メンバーを引っ張るというより後押しするような安心感のある音。今回のソロでは、歌うような自由さが増していて、それは今回のメンバーにベテランが多いために森さんが持った安心感の現れのような気がした。この安心感と落ち着きは、Body&Soulの照明とシンクロしてるなぁと思う。この照明にいちばん合うのが森さんのベースの音だ。

2002年5月25日 Body&Soulにて。