Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》和泉宏隆Piano Trio -Water Colors-
vol.93
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2002年8月30日東京・目黒BLUES ALLEY JAPAN 和泉宏隆(pf) 高水健司(b) 石川雅春(ds) 和泉さんのライブは、ソロピアノ、トリオ、グループとさまざまなフォーマットを聴かせてくれる。それぞれに「バンドで聴きたい」とか「やっぱりソロが一番」「あの曲をトリオで!」などと喧しいオーディエンス(含む自分)の声がある。しばらくバンドでのライブを続けて聴いた後の、ひさしぶりの迫力のあるトリオだった。 トリオ名の「Water Colors」は、3人の名前に「水」が含まれているから。音が「水性」なのは、やはり和泉さんのピアノ。そして、Water Colors(水彩絵の具)の画家として私が真っ先に思い浮かべるのがアンドリュー・ワイエス。色を重ねて生まれる信じ難い透明感と緻密さ、牧歌的な場所での現代的な構図。ワイエスの絵と和泉さんの音楽は、私の中では同じ引き出しに入っている。ワイエスの抑えた色調と夏の終わりのせつなさ、渇き始めた季節を水で彩るジャズ。 和泉さんのライブでリクエストを募ると必ず、10年以上前のアルバムからの曲名が挙がる。そのアルバムでベースを弾いていた高水さん。それ以来の顔合わせとのこと。ライブで聴くのは初めてのミュージシャン。ライブで、アルバムで聴き、自分でも弾けるんじゃないかと錯覚するほど、耳に染み付いた曲のイメージを壊さず、でも10数年の月日を溯るのではなく、今の和泉さんの音楽の引力による肉厚な音は、饒舌ではないけれど、雄弁。とてもビターなベース。まっしろいスケッチブックに木炭で一気に描きあげたドローイング。ウッドベースだけど、曲によってエフェクターを駆使して、色調を変えた音に遊び心がたっぷりで、曲の演出という点では高水さんがデザインしていたという気がする。 パット・メセニーのカバーの2曲(James,Here to Stay)が特におもしろかった。ウッドベースで、強引といえるほどにゴリゴリとした音を響かせたり、ドラムとピアノの掛け合いのカッコよさ。オルガンやパーカッションがあり、私にはコーラスやかなり耳についた「Here to Stay」もトリオでやると曲のエッジが立つようで。「James」は、ピアノとベースのユニゾンがシンプルでいて、なぜか華やいだ音の重なりがきれい。柔らかい音を奏でるミュージシャンばかりなのに、3人が揃うとすっきりとした切れ味のいい曲になる。 ドラムの石川さんは、これまでは賑やかなバンドでの演奏をいくつか聴いていて、このトリオで初めてじっくりと見て聴けたと思う。しなやかな、柔らかなと評されるドラマー。確かにやわらかではあるけれど、それよりも硬質な響きが耳に残っている。草書のように滑らかな筆遣いでありながら、墨跡が濃く、くっきりとして滲まない響き。 和泉さんのオリジナルやパット・メセニーのカバーには、ワイエスの水彩をイメージするけれど、ラーシュ・ヤンソンのカバーやスタンダードのジャズには、黒という色を強く感じたライブだった。 つや消しの黒のベースと漆黒のドラム、そこに流れる流麗なピアノは金。黒漆に金蒔絵。これが和泉さんの音楽に感じるもうひとつのイメージだ。 和泉さんは音の重なりや紡がれる様をとても大切にしているのを感じる。ピアノに向いながら、弾くのではなくて、「曲を歌う」とよく言う。過去に何曲か歌詞がついたものもあったけど、和泉さんが演奏する以上、詩は必要のないものだと思う。言葉がなくても物語や世界観はじゅうぶんに伝わるものなのだと思う。 2002年8月30日 |