Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》Benjamin Safari

vol.81

演劇レポート

劇団《トリのマーク》(通称)
『ベンジャミン旅行中』

2001年10月7日・8日

東京・荒川@高橋造船

浅草から隅田川を上って、もう少しで荒川にくっつきそうになるところ。巨大な団地と真新しい小学校、中学校。水の気配もあまり感じなくて、こんなところに「古い造船所」があるのかなぁとタクシーを降りる。行き止まりというより「立入禁止」の雰囲気。人の手の入った様子のない草むら、林に囲まれて「高橋造船」がある。ぴかぴかでカラフルな街と対照的に、鈍色の取り残されたような造船所。今年いっぱいで姿を消してしまうという古い造船所での野外劇。造船所のかたには失礼だけど、「入っちゃいけませんっ!」と絶対に言われていそうな建物。「秘密基地」の匂い。誘惑に満ちあふれた場所。


敷地に一歩はいると下は砂。受付をすませ、「どこに行けばいいんでしょうか?」。通路らしきものは見当たらず、魅力的な鉄の、骨組みのみ、に近い階段。「その階段を」この危なそうな階段を登ってもいいなんて!すごく嬉しい。登り切ると川が見える。本当に水際で作業をするものなんだ。お客さんの移動でシーソーのようになるベンチに着くまでも、冒険的な足元のおぼつかなさが懐かしく、嬉しい。客席の上には野球場のスタンドのように屋根があるけれど、箱を二つに切って真ん中からぐいっと広げて作った建物のように見える。真ん中の屋根なしの部分に2組のレールが敷かれ、ひとつには船が乗っている。このレールから滑らせて川に「船出」するのだろう。


晴天ではなかったけど、外で過ごすのにちょうどいい10月の気持ちのいい日。向こう岸には首都高の高架が見え、グレーのグラデーションの雲が何層にも重なっている。目の前には古びた船。ターナーの機関車の絵やニコラ・ド・スタールの船の絵のようで、油絵の具で描きたい重なりの空。


ギリギリ開演前に着席し、周りのお客さんも珍しい風景におしゃべりが弾んでいる様子。それがふっと途切れた時に人間型アナログコンピュータのベンジャミン(=柳澤明子)が登場。お菓子がいっぱい詰まっていそうな、丸い包み。振ると不思議な音がする(笑い袋のように)。もうひとり白い服の人(=櫻井拓見)現れる。包みを振って、その音で会話しているよう。二人は無表情で、軽々と船とそのまわりを走り回って、船の向う側に姿を消す。ちょっと抽象的な無言劇のような幕開け。モノクロームの風景の中に一点、ベンジャミンのカラフルな服が映える。


川のほうから、案内人(=山中正哉)と犬?(=出月勝彦)がやってくる。犬?は、鼻を駆使していろいろなものを探るけれど、余り優秀ではない様子。目に見えているものを鼻で探して得意がったり。「わん!」なんて一言も言わないけど、すごく犬っぽい。茶色のボーダーコリーのような感じ。棒を投げたら喜んで拾ってきてくれそうな犬。


案内人と犬と、ベンジャミンが向き合う。今回の「ベンジャミン旅行中」は、以前上演された「丘のほとりにて。ベンジャミン」の続編とのこと。それを見ていないので、どの辺りが続編かは不明。でも、川辺で再会したようだ。案内人が少々なつかしげに「ベンジャミン」と呼ぶと、「ハイ、ベンジャミンです。私ト話スト、イイコトガアリマス」と、「ワレワレハ、ウチュウジンダ」のような声で答える。ベンジャミンが何を分析するコンピュータなのか、わからないけど、ずいぶんと柔らかなコンピュータだ。そして、感情の現れない表情の、ほんの少し奥に「嬉しい」とか「楽しい」の源泉が眠っているようだ。


案内人に誘われて、ベンジャミンは客席の後方、造船所の下流を目指して出掛けることに。野球場だとかゾウやキリンのある公園を見に行くという。案内人の話ではすぐ近くだけど、ベンジャミンは寒さ対策にダッフルコートを探しながら、旅立っていく。相変わらず抑揚のない話し方だけれど、楽しいものが待っている予感めいたものでベンジャミンが満たされている。


遠い場所、近い場所、旅の重さも軽さもとらえかたは人それぞれ。。。再開発されたピカピカの街から道一本はいったところに、この造船所があり、その中に一歩はいると何年も時間を溯ったようだ。川にはプレジャーボートがエンジン音を轟かせ、水鳥が餌を探して潜っていたり。向こう岸には高速道路。目の前の役者さんたちの動きのリズムが心地よく、川をわたる風に誘われて見上げれば、空はなんだかとっても広いし。

2001年10月7日


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