Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》Educating RITA
Vol.70
「佐藤正隆事務所プロデュース公演:OFF ROAD SERIES 8」
【リタの教育】
2000年12月7日〜27日
下北沢◎OFF ・ OFFシアター
ストーリー自体は、多分こうなるだろうとの予想通りに進む「予定調和」のお話。それでも、リピーターも多いという再々演の舞台。ストーリーに仕掛けがあるわけでなく、華々しくお金をかけた派手な舞台でもない。つまり、「演劇」に観客が求めているもの100%絞りたてジュースなのだ。濃縮還元でなくて、その場で手絞りのフレッシュジュース。
美容師リタ(=富本牧子)と大学教授フランク(=有川博)の二人芝居。シチュエーションは、フランクの教授室での1週間に一度の社会人講座の授業。元気にドアを開けてリタが入って来て、出ていく。その日々の繰り返し。
今週と来週のつなぎ目は、薄暗く照明を落とした教授室でフランクが背広をセーターに、セーターをベストに着替えたりするだけ。小道具もフランクが片付ける。観客に見せながら、演技しながら。それが見事。べろべろに酔ったフランクが後ろを向いて、セーターを着替える。髪を手櫛でなで付けて振り向くと、ぱりっとしたフランクに変身。酔っている時は顔が赤く酒焼けしているようにも見えたのに。思わず拍手、したかった。今日はリタが来る日。それが嬉しければ軽々と椅子を運ぶ。会いたいくなければ、重く。幕を降ろしたり、真っ暗するまでもない、場面転換の時の役者さんって、例えば持ってたカップを片付けるのにも、通りすがりのコロスのように知らん顔をするのだけど、ここでは舞台の上にいる時は、徹底的にフランクとリタなのだ。
酒好きのフランクの社会人講座(文芸批評)にリタが受講生としてやってくる。初対面でいきなりタメ口のリタ。向学心に燃えているけど、見た目通りの無教養。でも、知性はある。べらべらと喋りまくるリタにフランクは好感を持つ。彼女に教えるのは大変そうだけど、楽しそうだ。このへんのリタが魅力的。「友達になりたい」と思わせる。
自分の無知をあけっぴろげに話す「リタの文芸批評」は、フランクを楽しませもし、友情が芽生える。フランクは捨てたはずの詩人としての自分を目覚めさせる。
楽しいだけの講座ではない。本当に純粋な向学心と自己啓発に燃えるリタと、それが理解できない夫。その凄まじい葛藤のなかで、リタはそもそもの向学心を見失っていく。試験にパスしたい。
「試験に受かる文芸批評」に徹するリタは、教養の鎧は手にしたけれど、内面の知性を失っていく。よくいるでしょ、頭がいいと思ってるけど、人の言葉でしか物事を評価できない人、そんなふうになっていくリタ。友達だったら、説教のひとつもしたくなる状況。それで、フランクとリタに亀裂が生じる。フランクは酒浸りになり、教授の立場さえ危うくする。
いちど芽生えた友情は亀裂に金接ぎをして、さらに強くなる。ハッピーエンドになるわけです。暗転のバックに流れる80年代ガールズロックがぴったりの物語。「ぴったり」の後に甘い、ポップな、と入れることができるかもしれない。だけど、ストレートなストーリーのなかに様々なメッセージが込められている。これほど「いまの私は、どのリタ?」と自問する芝居はないと思う。「リタの教育」の『の』は、が、を、に、と、等々いろんな助詞に変身して、自分の中のリタに呼び掛ける。二度、三度と観ても飽きることがないのは、役者さんが舞台に立つたびに「助詞」のバリエーションが豊富になっていくからなのだと思う。
2000年12月16日
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