加藤健一事務所「ザ・フォーリナー」

作:ラリー・シュー
訳:小田島 恒志
演出:久世龍之介

観た日:1999年6月17日

下北沢・本多劇場

おそらく1950年代くらいのアメリカ・ジョージア州。
女主人のベティ(花王おさむ=男の人です)が一人で切り盛りする静かな山荘が舞台。
ベティとは古い友人で常連客のイギリス軍人フロギー(松本きょうじ)が、その山荘へ友人チャーリー(加藤健一)を連れてやってくる。チャーリーの妻は、余命6ヶ月の不治の病(かもしれない)で入院中。片時も離れず妻のそばにいたいのに、その妻にも愛想を尽かされるほどの口下手!臆病!シャイ!なチャーリー。フロギーに病院から連れ出され、この山荘に来たものの、チャーリーは三日間、一人で過ごさなければならない。山荘に相客がいると知っただけで狼狽する内気なチャーリーが、誰とも口をきかず、それでも怪しまれず失礼にならない方法。フロギーが提案した方法は、英語がまったく分からない外国人(=フォーリナー)になりすますこと。今よりもまだずっと世界が広かった時代のこと、小さな田舎町しか知らないベティにとって、外国人チャーリーはきっとあるはずの知らない世界への憧れの象徴。

相客は、お金持ちのお嬢さんキャサリン(香月弥生)と彼女との結婚を控えた牧師デビッド(小須田康人)、そして少し知能の遅れたキャサリンの弟エラード(平田敦子)。

英語が分からないと思い込まれたチャーリーは、キャサリンとデビッドの言争いを聞いてしまい、キャサリンの妊娠を知る。デビッドと地元の不動産鑑定人オーエン(三田哲夫)との山荘乗っ取り計画。自分の妻となるはずのキャサリンがいずれ莫大な遺産を一人ですべて相続できるように、エラードが遺産の半分を受け取れないくらい重度の障害があるとキャサリンに思い込ませるために、エラードを陥れようとする「やさしくて寛大な牧師」デビッドの裏の行動も知ってしまう。

善人は、自分の問題を抱えながらも他人を信じ、人のために行動する。

悪人は、自分の問題を人のせいにして、陥れようとする。

チャーリーの問題は、他人と話ができないくらいの内気な心。たくさんの悩みや計画を知り、何もできない自分に苛立ちながらも言葉を手に入れ、山荘の善人たちの問題を解決しようとする。まるで、懺悔を聞いた牧師のように。チャーリーが手に入れた言葉は、重度の知能障害のはずのエラードが教えてくれる初歩の英語。それに大きな身振り手振りを加え、どこかわからない遠い架空の外国語を操る。シャイなチャーリーとは信じがたいほどの明るさ、無邪気さでキャサリンの心もほぐしていく。

その状況が気に入らないのは、オーエンとデビッドの二人の悪人。”外人”チャーリーが邪魔で邪魔で仕方ない二人は K.K.K(クー・クラックス・クラン)の一味だった。ベティの山荘をのっとりK.K.Kの帝国建設の足がかりとしようとしているのだ。

”外人”排斥を叫ぶオーエンが仲間を引き連れ、山荘襲撃を宣言。

不足している部分を得意なことで補いながら、チャーリー、ベティ、キャサリン、エラードは、K.K.K.の襲撃をはね返し、山荘を守り抜き、そして大団円。

K.K.K.まで出てきてしまって、物騒な重いお芝居かと思いきや、そこは「加藤健一事務所」のコメディーだから、涙を流して笑い転げているうちに2時間の舞台はあっという間に幕が降りてしまいます。

加藤健一事務所の舞台を観るために何度も本多劇場に足を運ぶのは、ここのお芝居(のセリフ)が信じられないようなうその積み重ねであっても、現実社会のストレスを忘れさせてくれるからなのです。会社や学校や…いろいろな場面で遭遇する、ちょっとしたムカッとすることをすっかり忘れて笑える、そして「明日への活力」を得られるところが好きで、足を運ぶのです。そして、そこに何かメッセージや意味が感じられる。明確な言葉で表わされるものではなくても、お土産をもらって劇場を後にできるのです。重たいメッセージやテーマ、底の浅い笑いを提供する劇団はたくさんあります。加藤健一事務所のお芝居は、おいしいお茶を一口飲んだ時のため息や微笑みなのだと思います。ティーバッグにポットのお湯でじゃなくて、ゴールデンルールをキチッと守っていれたお茶です。

そして、役者さんもいつも素敵な人が揃っています。観たいな、と興味を持った舞台でも、マイク無しでは声も届かないようなアイドルなどが出演していると観たい気分もなくなってしまうのですが、ここではそんなこともなく、毎回好きな役者さんが増えてしまいます。「ザ・フォーリナー」では、大ファンの松本きょうじさんと第三舞台の小須田康人さんの共演が楽しみでした。いつもながらに自然体でご自身も楽しんでいる様子の松本さんと、凄みがありながらも「笑い」も忘れない小須田さんはやはり期待以上でした。今回、新たにファンになったのは、平田敦子さん。以前ゴージャスなオペラ歌手を演じられたのを覚えていますが、「ザ・フォーリナー」のエラードのなんて可愛いこと!オペラ歌手体型の平田さんが演じる少年の無邪気さの素敵なこと。純粋な少年を演じる女優を間近で観られたことは大きな収穫でした。

さて、「ザ・フォーリナー」では、幕が上がる前に目の不自由なかたのために、舞台上のセットの説明をする日があるとのことでした。私が観に行った17日がちょうどその日だったのです。どういう風に説明をするのか、体験できることはぜひ、と思って早めに劇場に行ったのですが、開場時間を遅らせ、対象になるかただけを中に入れて説明したようでした。これって、バリアフリーでも何でもないと思いませんか?取り上げた新聞記事が劇場ロビーの壁に貼ってありましたけど、それはちょっと本末転倒な話だと思いました。私の座席のそばに目の不自由なかたがいらして、同じように笑い転げてたので、十分な説明があったものと思いますが、ほかの観客がいる時にやってもらえば、少なくとも300人くらいは「ああいう説明がいいんだ」と勉強になったと思うのですが。(新聞記事によると舞台の上を時計に見立て、なん時の位置にテーブルがあり・・・とのこと)

6月2日〜20日:下北沢・本多劇場
6月29日〜7月1日:京都府立府民ホール・アルティ
7月2日〜4日:新神戸オリエンタル劇場
7月8日〜11日:大阪・近鉄小劇場


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