Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》GARAM QUINTET

Vol.71
2000年12月18日

[GARAM QUINTET]ライブ



新大久保:Someday

土井啓輔(尺八)
常味裕司(ウード)
谷川賢作(P)
早川岳晴(b)
吉見征樹(タブラ)

民族楽器や邦楽がブームになっているとは言え、ふだんはジャズを多くやっているライブハウスでは、どのくらいのお客さんが集まるのだろうという懸念あり。超満員ではなかったけれど、テーブルは、ほぼ埋まるという感じ。ミュージシャンにより近い席に陣取るような熱狂的な人はいない。かといって、スカして無関心に聴き流すような雰囲気はなく、ほどよくフレンドリーなライブ。私たち以外のお客さんは、リピーターのようで、どんなふうに楽しむのか、よくわかっている感じ。仲間意識、ファン意識の結束のない大人っぽく居心地のいい時間だった。

1曲目『破獅子』尺八とウードのデュオのイントロ。耳慣れた尺八の音色。重く深い音は、虚無僧を頭に浮かべてしまい「苦手かも…」。ウードの音色は、三味線と琴を合わせたような感じ。余韻というのか、響きかたの歯切れがいい。途中からピアノ、ウッドベース、タブラが入ると一転して明るく賑やかになる。歌舞伎の「石橋」みたい。唐獅子が花や蝶にじゃれつくよう。めでたさ満開の華やかさ。曲の印象は、まだまだ「和風」だけれども、楽しくなってきた。

演奏したのは、オリジナル、民謡をアレンジしたもの、ジャズ(チック・コリアなど)。タブラとウードは東アジアの楽器、ジャズのスタンダードな楽器と言ってもいいピアノとウッドベース、それに邦楽の尺八。誕生した土地や演奏すべきジャンルは様々。バラバラで取り留めのない組み合わせのようだけど、流れてくる音は、楽しく心地よい。体が、ではなくて呼吸や気持ちがリズムをとってしまう。ライブは、尺八の土井啓輔のリードで進行していくが、主役は尺八ではない。5つの楽器のバランスがすごくいい。それぞれの楽器の長いソロの間は、ほかのメンバーも観客と同じ目線で音を楽しんでいる。

和風のイメージを持ったのは、1曲目だけだった。尺八の竹と息が出す多彩な音には、曲ごとに驚かされる。「スペイン」などジャズナンバーを演奏する時の尺八は、ソプラノサックスと同じように軽く高い音で、音律もサックスのような音階。「ソプラノ尺八」とでもいうのかな。3本の尺八を曲ごとに持ち替えての演奏。どこかで聴いたことのあるような安心感のある音色だけど、どの楽器とも違う。強いて言えばフルートに近いかもしれない。普通に尺八を吹きながらタンギングのように吹き口のところで「ドゥドゥ」と声を出す。するとトランペットのような音が出る。時に尺八を叩いてパーカッションにしたり。

楽器の組み合わせも個性的だけど、ミュージシャンのいでたちもまたバラバラ。几帳面そうなピアノの谷川賢作だが、演奏は「もののけのよう(by土井)」だし、ウッドベースの早川岳晴は、バンダナで頭を包みワークパンツ。いままで聴いたどのベースよりも、太い音。弦を操るだけで腕の骨まで傷んでしまいそうな音が響く。ウードの常味裕司、タブラの吉見征樹は、外見だけでアジアの楽器を操る人と言い当てられそうな感じだけど、求道的な姿勢と表情の常味裕司と遊び心いっぱいの吉見征樹と雰囲気がまったく違っている。確率の計算ではないけど、それぞれが持つ、様々な表情の組み合わせが一体いくつあるのかと。でも、そのどれもが奏でる音楽の要素を含み、溶け合っている。

1stセットが終わって休憩時間中に、停電。非常口の緑の灯りと数本のキャンドル、ミュージシャンの手元をかろうじて照らすだけの心許ない非常灯で2ndセットが始まった。もともと5つともアコースティックな楽器。さして広くないライブハウスだから、アンプなしで充分に音が満ちる。と言ってもグランドピアノの音が大きすぎるだろう。1stセットでパワフルな演奏を聴かせていたピアノに、ミュージシャンから「控えめにね」。客席からも「ふた閉めれば〜」と声が掛る。ピアノのふたを閉めることなく、「溜息のような音色」で2ndセットを演奏。常連のお客さんが懐中電灯でスポットライト係。停電のアクシデントでライブの楽しさが増してしまった。

「イトゥナーシャル」(アラビア語で12という意味だそう)では、タブラを叩きながら、吉見征樹が何やら不思議な言葉で歌う。どうやら、タブラの演奏方法の口承だったようだ。動物の鳴き声のような、口三味線のような。その熱っぽいリズムに、眠り薬のように頭が空っぽになっていく。店内の暗さも手伝って、まぶたを閉じる。ほんとに眠ってしまいそうに心地よいのだけど、それより楽しいライブを見ていたい本能が勝つ。

「秋田大黒舞」は、客席も「♪はぁーめでたいめでたいっ」と御唱和。タブラが導くリズムはヒップホップかラップの雰囲気。「けっこう、民謡も楽しいじゃん(小節がなければね〜)」。民謡もジャズも境界線の見えないことが楽しく、意外。

ライブの終わり間際に電気が復旧。慌ててマイクやアンプを繋ぐんだけど、そのままアンプなしで通してくれてもと、ちょっと残念。次は何をやるの?という好奇心がどんどん湧き上がってくる。そして、ステージと観客とライブハウスがポジティブに楽しもう!という気持ちを全面に出している。楽器の組み合わせの意外性だけでなく、演出も最低限なライブ。ハプニングにせず、それに負けない力強さがすごくおもしろかった。


WADA Map」の扉へ

無断転載禁止 掲載:アーク編集室