Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》Izumi April 2000

ライブ・レポート

和泉宏隆マンスリーライブ#9

4月15日

東京建物八重洲ホール

ピアノ:和泉宏隆
ウッドベース:佐藤恭彦
パーカッション:山本恭久
キーボード:林 良

見渡せば柳桜をこきまぜて都ぞ春のにしきなりける

花冷えの、花散らしの雨の中、和泉宏隆さんのマンスリーライブです。

ライブの直前になって、ウッドベースとのデュオにパーカッションが、さらにギリギリにキーボードが加わってという4人の編成。ステージの上にはいつものピアノ、ウッドベース、そして山本恭久さんの楽器の数々が「屋台」と呼ばれるセットに乗り、キーボードは楽器はステージ上だけど、演奏される林良さんは客席に椅子を置いてとちょっとぎゅうぎゅう詰めです。林さんは、お客さんとおなじ方向を向いているので、4人のプレーヤーはステージ中央を囲む車座のような形になっています。

東京では1週間前の週末に桜が満開の見ごろでした。季節柄、華やかな曲、華やかなアレンジが選ばれたのでしょうか。八重洲ホールは、春の花が咲き競う爛漫の音楽で満たされました。外は冷たい雨が止むことなく降り続いているのに、ピアノの音、ウッドベースの音はからりと乾いて、粒子がどこまでも消えずにホールに反響しているようでした。満開の桜の大木を囲むように向かいあう4人の花の宴。時折、ひとひら、舞い散る花びらのような鈴の音。それがとってもスパイシー。離れたところで咲いている花の香を運んできます。

うきうきとして思わずハミングしてしまいそうな気分。「あれ、ハミングが聞こえる」と思ったそのタイミングのふんわりとした音色。キーボードの林さんが醸す音です。よくピアノを演奏しながらハミングするピアニストもいます。和泉さんのハミングを林さんのキーボードが代わりに歌っているみたい。

2階席から見下ろすステージは雲間から仙境の宴を覗いているようでした。いつにもましてパワフルな和泉さんのピアノは、こぼれ落ちんばかりの満開の桜に水仙の酔ってしまうほどの強い香りが加わったよう。佐藤恭彦さんのウッドベースは若い葉と梢のコントラストがはっきりとした春の樹木。弦が出す音というより、楽器に使われた木が歌っているかのような生命力を感じます。笑い声を運ぶ風。小鳥が飛んできたり、ゆっくりと暮れる春の夜が藍色に染まっていく様子。細やかな行間の表情をパーカッションとキーボードが彩ります。中東やアフリカなどの民俗楽器のような不思議な「音の出るもの」を駆使する山本さんの表情も春爛漫といった感じ。

ラーシュ・ジャンソンの“More Human”をピアノとウッドベースのデュオで。ゆったりと流れる川を小舟でゆくような蕩々として安定したメロディー。ごろごろ寝転がって聴きたいほどリラックスさせるリズム。和泉さんはマンスリーライブは「りーらーっくすして聴いて」とMCやリーフレットでおっしゃるのだけど、本当にこの日のライブはポカポカ、きらきらした曲が多くて、人目がなければ床に座り込みたい気分。

ほとんどのライブで演奏され、少しづつ違う雰囲気を楽しめる“Three Swallows”。いままではツバメの飛ぶ季節-初夏-をイメージして聴いていましたが、今回はいっそう新鮮な雰囲気。春は息吹きの季節、なのでしょうか、すべての生き物へのSeason's Greeting の気分がいっぱいの“Three Swallows”でした。まあるくした掌でつつむ小鳥のひなの柔らかな羽毛のくすぐったさ。膝で眠ってしまう子猫の鼓動。道端のアリンコとの再会さえも愛しいと感じる春。「ああ、あったかいなぁ」

おそらくピアノだけで演奏されたのなら、夜桜の妖し気な艶っぽさ、人を惑わす鈴蘭の香りといった雰囲気の春も聴こえたのかも知れません。楽器に曲にプラスされるエレメンツの構成の見事さは、和泉さんのプロデューサーとしての手腕なのでしょう。どの楽曲も初めからトリオであったり、カルテットであったりとバンドの編成が決まっていたかのように世界が作られています。ひとつの曲がさまざまな編成で、いろんな楽器で演奏されるのを聴いて、それぞれ「正解」であることに、いつも驚き、新鮮な気分です。演奏される曲の半分くらいは毎回おなじみの曲ですが、一期一会のライブ感が楽しみのひとつになっています。

今回のマンスリーライブは、東京建物八重洲ホールの設え、雰囲気をぜひ!と和泉さんの事務所にお願いして写真を撮らせていただきました。ところがカメラを構えてみるものの、写真の腕が悪いことに気付かなかったのですね。音楽に心を奪われ過ぎたこともあり、あまり「いい絵」になりませんでした。実際のホールは写真の100倍くらい、きれいなところなんですけど。

2000年4月15日

東京建物八重洲八重洲ホールにて。


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