Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》Izumi January 2000
ライブ・レポート
和泉宏隆マンスリーライブ#7
ピアノ:和泉宏隆
ヴァイオリン:松野弘明
和泉さんのマンスリーライブのレポート、こちらもマンスリー化しています。
楽器の音がきれいに響く小さな室内楽のホールで過ごす時間。ひと月に一度の貴重な時間です。ここは、元はピアノ店のビルだったそうです。オフィスビルとして生まれかわる時、設えや音響の良さを惜しまれて、このホール1室だけがそのまま残されたそうです。
東京駅八重洲口から徒歩3分。立地条件は最高なのに、ホールガイドにも載らず、クラシック好きの知人に尋ねても知る人はいませんでした。和泉さんのピアノを聴きたいのはもちろんですが、それに加えて「このホールだから」というのも毎月足を運ぶ大きな動機のひとつです。
柱時計の歯車の音、振り子の音が聞こえてくるような落ち着いたホールに座っていると、早くなり過ぎた自分の時計のリズムを合わせなおすことができるような気がします。
1月のゲストは、ヴァイオリンの松野弘明さん。このお名前、クラシックを好まれるかたはきっとご存知でしょう。
2歳でヴァイオリンを始め、様々なコンクールに上位入賞。1987年にサイトウ・キネン・オーケストラのヨーロッパ・ツアーに最年少メンバーとして参加。1988年、ニューイングランド音楽院に留学。在学中にもニューイングランド室内管弦楽団でコンサートマスター、ソリストとして活躍。というキャリアを持つ32歳のヴァイオリニストです。帰国後の現在はソロや室内楽、国内の主要オーケストラとの共演。
ヴァイオリンとのデュオを聴いて、初めからこういう曲だったかのような印象を持ちました。ヴァイオリンの存在を予感して聴いていたのでしょうか。ウッド・ベースとのデュオ、トリオで聴いた時には、「こういう風になるんだ」と新鮮な気分で聴いていたのに、デジャヴであるかのように。ユニゾンで演奏されるのではないけど、意外な展開、という風になるわけではなくて、モノクロで観た昔の映画がカラーになって甦ったようです。
いろいろな楽器との共演で、和泉さんの曲は「見え方」を変えてゆきます。平面であったものが立体になり、奥行きが増し、透明度や色彩、トーンが変わります。そして、今日のライブでは今までに観た映像を連想しました。映画やポストカード、CDのジャケット、旅行で撮った写真、大昔の記憶…。脈絡がないようでいて、確かに自分の引き出しの中に仕舞ってあったものたち。
それを喚起させたのが、松野さんのヴァイオリンなのでしょうか。小さなホールで、ヴァイオリニストはとても大きな呼吸をしながら演奏するのだと知りました。まるで、管楽器の演奏のように、曲に合わせたブレス。 ホールに浮遊するエネルギーのすべてで演奏するかのようです。決して、乱暴な弾きかたではありません。全体の印象は、フォーレやドビュッシーを思わせるつや消しの金色。そんな繊細な旋律を肉厚に表現するのです。何だか、体がぽかぽかとしてくるようです。栄養の豊かな音です。ただ目を閉じて聴いているだけで、自分の中に蓄えたものがラッシュ・フィルムのようにくり返されます。映像に合わせたBGMの逆、なのかな。
少し前まで、ヴァイオリンが嫌いでした。ずーっと昔、ある有名なヴァイオリニストのリサイタルで良い印象を持てなくて、以来、(特に日本の)ヴァイオリンは苦手でした。数年前から、若い日本人の活躍にその演奏を聴いてみると、「あの人」が何故、日本最高のヴァイオリニストなどと言われたのかが不思議なくらい、みんな素敵な演奏をするのです。そして、去年は、三上亮さん、松原勝也さんの演奏を聴き、今日の松野弘明さんのヴァイオリンも楽しみにしていました。春の暖かな陽だまりのようにポジティブな光りに満ちた演奏でした。「山の音楽家」じゃないけど、きゅっきゅっという響きではないんですね。 高い音も低い音も、瑞々しくやわらかい音が素敵でした。
次回のマンスリーライブは、2月13日 日曜日の午後3時から。
中学生以下料金も設定されています。
2000年1月12日
東京建物八重洲ホールにて。
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