ライブ・レポート

和泉宏隆マンスリーライブ#6

11月5日
東京建物八重洲ホール

ピアニスト和泉宏隆さんのホームページへ http://member.nifty.ne.jp/~IZUMI/

ピアノ:和泉宏隆
ベース:佐藤恭彦
ドラム:諸藤一平

今回でもう6回目の和泉宏隆さんのマンスリーライブです。

はじめの数回はソロ・ピアノで、次にベース(佐藤恭彦さん)が加わり、そのデュオにドラム(諸藤一平さん)が加わりピアノ・トリオという形になりました。

和泉さんは11年前にファースト・アルバムを出された時、「10年後は何をやっている?」という質問に「ピアノ・トリオを動かしているでしょう」と答えられたそうで、昨年T-SQUARE を脱退されてからもことあるごとに「ピアノ・トリオ」という言葉は出てきました。

そして、満を持して、今夜ピアノ・トリオ誕生です。

1曲目はソロ・ピアノでSong of wisdom  WISDOM は、このピアノ・トリオとは別の和泉さんのグループの名前でもあります。

いままでの和泉さんの軽やかな華やかな曲とは違い、足元に重い霧がまとわリつくようなピアノの低音がコントラバスの響きのよう。道に迷って迷ってどうにも進めなくなった時、霧が晴れてきて、なあんだ、進むべき道はここにあったんだと見えてくる。霧が晴れるとともにピアノの音もいつもの和泉さんの透明感に溢れてきます。

2曲目からはピアノ・トリオで。2曲目Crossroads 3曲目Coming home in the morning のドラムはブラシによる演奏。ドラムってこういう楽器だっけ?打楽器ではなくてストリングスのように広がり、響いてメロディーを彩っています。走ったあとのドキドキのようなウッドベースと役割が入れ替わったようにも感じます。

4曲目In the stream は、トリオでの演奏を想定して作られたそうで、やはり「はまり」ます。3、4曲目は前回のマンスリーライブでもデュオで演奏され、ウッドベースがドラムを予感させる、しっとり大人の雰囲気だったのが、トリオになってみると一転。意外なことにジャズっぽさが薄れ、かといってどのジャンルっていうのがなくて、これが「和泉さんの音楽」。聴く人すべてを「音楽っていいねぇ」と HAPPINESS !にしてくれます。

5曲目 Looking into the abyss 6曲目 Three swallows これはもう和泉さんの真骨頂。旋律の美しさ、紡ぎ出される音の美しさが際立ちます。いま自分がどこでどうしているのか空っぽになって、曲と一緒に宙を飛んでいたような気がします。ピアノってこういう音が出るんだ。ウッドベースもドラムも聴いたことがないような“音”が曲によって導き出されていくようです。このマンスリーライブでいつも感じるのは聴き慣れたと思っている楽器でも、えっ?とびっくりするような音に出会えること。そして、楽器の役割の先入観が覆されること。ベースやドラムがピアノのバッキングだけではなくて、すべてがメロディーと一緒に歌っていること。前回のライブのサブタイトルは「合奏のよろこび」でした。でも、合奏ではなく合唱かなぁと思うのです。楽器だけでなく演奏している3人も歌っているような気がして、6つの声が聴こえてくるようなのです。

休憩をはさんでの第2部は、スティービー・ワンダーのRibbon in the sky から始まりました。聴き慣れたメロディーもピアノ・トリオのアレンジで聴くと新鮮だけど、すぅっと聴きいってしまう相性のよさ。2曲目は15年ほど前のT-SQUARE (当時は THE SQUARE) のアルバムから Cape Light 。もともとはアルトサックスがメロディーを吹く曲をベースを弓で弾く演奏から入ります。

1曲目が終わると和泉さんのMCが入りました。休憩時間中にも楽屋では楽しいおしゃべりが絶えなかったそうで、その雰囲気のままの和やかな第2部。2曲目に入ろうとした時に和泉さんが「ここ、曲つながりでしたッけね」と。1曲目、2曲目は続けて演奏される予定だったそうですが、MCを入れてしまったんですね。続くCape Light は、冬の夜の海を感じさせるバラードなのですが、佐藤恭彦さんも複雑な笑顔で演奏に入ってしまいます。

3曲目My one and only love 4曲目 Fall in love with love は、スタンダードナンバー。真っ赤なドレスのミシェル・ファイファーがピアノにしなだれかかるようにMy one and only love が始まったところで、和泉さんの「あ゛ーー!」という声!打ち合わせと違うふうに進めてしまったようです。そんなハプニング、他のライブでは歓迎されないかもしれませんが、「今日のおまけ」的で客席もそれに巻き込まれることを喜んでしまいます。「こちら現場でーす(T-SQUARE時代、ハプニングの常套句)、全部、私が悪いんです!」なんていう言葉とホール全体の爆笑のあとの演奏は、やはり複雑な笑顔で。だけど、ひとたび音が鳴り出せば、そこはジャズ・クラブに。艶っぽく、だけど俗に流されないイノセントな感じが和泉さんらしい。次の Fall in love with love は、フランク・シナトラのステージのよう。楽しい、楽しい。ピアノ・トリオなのにビッグ・バンドのように豪華。

あれ?ドラムの諸藤さんは26歳でしょ?そんなに若い人が叩いているとは思えない、すごく練れたというか百戦錬磨のライブをこなしたおじいさんドラマーが叩いているような気分で聴いてしまいました。先日の“TOSHIMI SESSION” での演奏はパワフルで若々しくて、今日は黒いTシャツにネックレスやブレスレッドが見えるのが不思議なくらいの老練な(失礼!)ドラム。もしかして一番落ち着いて演奏してたのが諸藤さんかも。

第2部のラストは、ラ−シュ・ジャンソンのMore humanThe Inner room 。和泉さん、本当にラ−シュ・ジャンソンがお好きなんでしょうね。ライブでは必ず彼の曲が演奏されます。もうご自身の曲になっているかのように澱みなく和泉さんのスタイルに昇華されていて、これは作曲したラ−シュ・ジャンソンも、曲も嬉しいだろうな。

終わってしまうのが惜しいライブ。3人のプレーヤーを送ったあとも拍手は鳴りやまずにアンコールの手拍子になります。誰が扇動しているのか、テンポがクルクルと変わるのに、みんなそれについて手拍子。

アンコールは、佐藤さんのアルトサックスが入るForgotten SagaOMENS OF LOVE 。どちらもT-SQUARE時代の曲。叙情あふれるForgotten Saga がため息とともに消えていくと、次のOMENS OF LOVE は、旅行鞄にお気に入りを詰め込んで、という楽しさ。ビッグ・バンドの「お別れのテーマ」風にちゃんちゃんっと終わって、暗黙の「今日はここまでね」という感じなのですが、やっぱりもう一度アンコールの手拍子をしてしまうんですね。今度も一糸乱れぬ(?)客席の手拍子。最後には笑い声まで起きてしまう。

ひとり登場した和泉さんが弾くのは、緑の大地。かつてTERRA DI VERDE というタイトルで T-SQUARE のアルバムにただ1曲、ソロ・ピアノで収められた曲です。短くて、楽譜を見ると易しそうなのですが、和泉さんと同じ音は出せない。小さなホールにシンプルな音がしみ込んでいく…。

次回、東京建物八重洲ホールでのライブは2000年1月12日、ヴァイオリンとデュオ。

その他のライブは、12月6日東京・青山CAY。1999年内は、関西や東北、苗場プリンスなどでもライブがあるそうです。

詳しいスケジュールは和泉さんのホームページをご覧になってみて下さい。

お伝えしきれない、楽しいMC風のエッセイも掲載されています。

和泉さんのホームページ http://member.nifty.ne.jp/~IZUMI/

1999年11月5日 東京・八重洲にて。


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