「和泉宏隆マンスリーライブ Vol.5」

9月16日、東京建物八重洲ホールで、久しぶりの和泉宏隆氏のマンスリーライブ。
東京に秋を運んできてくれたようなライブだった。
マンスリーとは言うもののレコーディングやカザルスホールに場所を替えてのコンサートのため、このホールでは4月以来。
これまでの4回はソロピアノだけだったけど、今回はウッド・ベースの佐藤恭彦氏がゲスト。

和泉さんのピアノのためにあるようなこのホールでの今日のライブは、ソロピアノアルバム“Forgotten Saga”からEarth Songと“たからじま”から砂山を、ソロピアノの演奏で始まった。

「練習し過ぎて」ちょっとドタバタとしてしまった Earth Song だったけど、最初の1音の余韻の豊かさ。これだけで、和泉さんの世界に引き込まれてしまう。アコースティックなのに、ピアノの音って、楽器の音ってこんなにも大きかったけ?パワーがあるんだっけ?

2曲目の砂山。真塗の文箱の蓋を開けてみれば、なかは華やかな蒔絵で波と横たわる天の川が描かれている、そんな世界が広がる。

3曲目から、ウッドベースの佐藤恭彦氏が加わる。小柄な佐藤氏が抱え込むようにウッドベースを持ち、緊張の面持ちでステージに。はじめてデュオで聴く Coming home in the morning は、和泉さんのオリジナル。ピアノの音とベースの音がちょうどいいバランスで響く。ピアノがメインではなく、ベースもバッキングだけではない。つづくIn the Streamは、ビル・エヴァンスのUNDERCURRENT に触発された曲とのこと。どちらの曲も“WALTZ FOR DEBBY”のビル・エヴァンスとスコット・ラファロのコンビネーションのようだ。

“WALTZ FOR DEBBY”は、ピアノ・ベース・ドラムのトリオなのだが、佐藤氏の指がベースに触れる音が時折、ドラムが加わっているかのような音に聞こえる。折しもMCで、和泉さんが「シンバルがしりーんって聞こえるような」とおっしゃっていた、その通りに。

次の2曲は、和泉さんのT-SQUARE時代の曲。華やかに歌うピアノと鼓動のように響くベースが心地好いWhite Mane。 途中ピアノがバッキングに変わり、ベースソロになる。楽器の相性なのか、プレーヤーの相性なのか、穏やかにゆっくりと夏が終わっていくさまが描かれているような気がする。リリカルなメロディーはぱちぱちと弾ける炭酸の泡がやがて落ち着いていく、そんな感じ。T-SQUARE時代に、夏の野外ライブの締めくくりとして演奏されたその記憶が曲に残っているようだ。

そして、Leave me Alone 。第1部のラストではあるけれど、第2部のプロローグのような曲。ピアノとウッドベースを堪能させてくれる。ものすごく大人の雰囲気なのだけど、お酒ではなく、苦いコーヒー。チョコレートをかじりながら飲む、ヨーロピアン・ローストの濃いコーヒー。酔うのではなく、自分を見失うことなく。

第2部。アントニオ・カルロス・ジョビンのHow Insensitiveから。目の前にとりどりに染まった木の葉や時雨、秋の風景が広がる。佐藤さんのベースは、滑らかに響く音ではなく、どこか引っ掛かるようなツイードの手触りの音が暖かい。

和泉さんの敬愛するスウェーデンのピアニスト、ラース・ジャンソンのMarionette,The Inner room に続いていく秋の空気、ユニゾンでくり返されるテーマが、セザンヌのくっきりと荒削りな輪郭の静物画、印象派の絵画のように光と影とを織り出していくようだ。

ラストは、和泉さんオリジナルのLooking into the AbyssThree Swallows 。本当に濃厚なピアノとベースの世界。柔らかな光と白い壁、木のドアをバックにした和泉さんと佐藤さんがポストカードの絵のように収まるステージ。華やかで明るい和泉さんのピアノの音がしっとりとまろやかに落ち着いて。ピアノとベースの二つの音が縄を綯うようにひとつの音になっていく。

曲が終わってしまうのが惜しい。観客のそんな気持ちが一体となったため息と拍手のなかを、二人は退っていったのだけど、アンコールを求める拍手に変わってすぐに、またステージに現れてくれる。アンコールを、というより今日の演奏がいつまでも終わりませんように、という思いがプレーヤー二人と通じ合っていたようで嬉しくなる。

アンコールの1曲目は、“Forgotten Saga”のElegy For Silence 。メロディーを弓を使ったベースで弾く。急な曲目だったのだろうか、音が合わないのだが、そのうまく行かないもどかしさがストレートに表情に現れてしまう佐藤さん。素顔を見せてくれるほどに観客と気持ちが通ったようで、それを感じられることも今日の収穫。ソロピアノで耳に焼き付くほどに聴いていたElegy For Silenceもベースが入るとまったく違う曲のように表情を変える。2曲目のSAGA いつもより早いテンポで演奏される。和泉さんの指が勝手にスピードを決め、止まらないかのように走っていく。

再びのアンコール。佐藤さんの手にはアルトサックスが。しきりに恥ずかしがってステージに上がっても後ろを向いてしまったり、照れ隠しか先ほどのElegy For Silenceの引っ掛かったメロディーを吹いてみたり。だけどベースに負けないくらいのサックスの音色。小さなホールだから、生のサックスの響きがいい。途中、ステージに横たえてあるベースを跪いて(お琴を弾くように)演奏したり。

和泉さんお手製のライナーノーツには、今日のライブの「お題」は“合奏のよろこび”。とある。楽器がふたつ、プレーヤーもふたり、1+1が2になる以上に大きく膨らむ。充実して、本当に音を楽しみ、また時間を共有できたことが嬉しいライブだった。

次回の八重洲ホールでのライブは、11月。和泉さん、佐藤恭彦氏に加えて、諸星一平氏という若いドラマーが加わる。和泉さんがT-SQUARE から独立し、バンドを立ち上げた時にGETした逸材。まさにホールから溢れるような演奏になるのではないかと今から期待が膨らむ顔合わせ。

[9月16日所見/東京建物八重洲ホールにて]


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