映画感想
「リトル・ヴォイス」
HP URL http://www.iijnet.or.jp/ASMIK/M/Asmik/1999/Voice/
久し振りに映画を観に行きました。
8月頃だったか、この映画の紹介を読んで、観たくて観たくて。
9月初めの封切だったのに、ようやく観に行くことができました。
恋焦がれた映画だけに、期待ばかりが膨らんでしまって…、ということにならなければいいけど、など余計な心配をしつつ。
マリリン・モンローの「Happy Birthday…, Mr.President …」の映像は見たことがあるでしょう。そのたどたどしく、セクシーな歌声を、細かい息づかいまで再現してしまう少女のお話です。
彼女を母親はLV(エルヴィ=リトルヴォイス)と呼びます。最愛の父の死後、外出なんてしない、母親にさえめったに声を聞かせないほど自閉的になってしまったLVの世界は、父の残したたくさんのレコードだけ。男にだらしなく、騒々しい母とは、平行線が反発して螺旋を描くような日々。感情を押し殺すことに耐えられなくなった時、レコードをかけ、父との思い出と歌の世界に逃げ込んでいきます。誰もが耳にしたことのあるジュディ・ガーランド、ビリー・ホリディ、マリリン・モンロー…。スタンダード・ナンバーのフレーズがそのままLVと幻の父との会話。いつしかLVは、レコードの中の歌手と同じ声で同じように歌うことができるようになっていたのです。母が連れ込んだ情事の相手、自称有能音楽プロモーターがその歌を耳にして…、物語は進展してゆきます。
母と娘の確執もストーリーの核になっています。機関銃のように喋りまくる母とかたくなに無言をとおすLV。表現方法は違っていても、二人の心の叫びは一緒。和解はできなくても、お互いの澱を知ることでLVは鳥かごから解き放たれます。
シンデレラに、白雪姫…あちこちのおとぎ話の登場人物がピックアップされて作り上げるリアルでファンタジックなお話です。ちょっと頼りないけど、王子様も出てきますよ。
この映画は、主演のジェイン・ホロックスの類いまれな才能に惚れ込んだジム・カートライトが、彼女を主人公にした舞台劇を書いたのが始まり。ロンドンでロングラン上演。それを「ブラス!」のマーク・ハーマン監督が映画化したもの。
類いまれな才能とはLVがそうであったように、何人もの歌手の物真似で歌うことができるというもの。そう、その歌声を生かすべくジェイン・ホロックスのために作られた物語なのです。
といっても物真似タレントではありません。王立演劇学校、ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーで、演劇を学び、経験した実力者。たくさんの舞台や映画に出演している実績もあります。
ジェイン・ホロックス演じるLVがジュディ・ガーランドになり、モンローになり、歌う姿と声は圧巻。共演のベテラン俳優も泣かせてしまったという歌声です。
映画だからアテレコ、吹き替えも可能ですし、クチパクに録音のジュディ・ガーランドを当てることだってできます。
でも、映画の中で彼女が歌うシーンは、すべてライブ録音だそうです。初めに舞台でジェイン・ホロックスが実際に歌っているのだから、彼女の声であることは間違いないのですが(違っていたら大問題です。)、それでも信じがたい歌声。
スタンダード・ナンバーが、映画館を出たあとは思わずCDショップに行ってしまいそうに魅力的なことに気付きました。よく耳にはするものの、じっくりと1曲聴いたことはなかったなぁ。
台詞で笑えて、表情で笑えて、泣けて、歌声に感動して、2時間に満たない映画です。登場人物が皆(最後には)「なんていい奴なのっ」。ひとりとして「いまいち」がいない俳優陣と特に音楽に力を入れたというスタッフ。係わる人すべてがこの映画を愛しているような、出来上がった時の笑顔と乾杯の様子が見えるような素敵な映画でした。気分のいい佳作といったところかな。
本編上映前に「リトル・ヴォイス」に出演のユアン・マクレガー主演のとっても短いおまけがあります。
リーバイスの短編CFクリップの“desserts”
1999年ベルリン国際映画祭 短編映画部門銀熊賞(審査員賞)受賞だそうです。
10月15日 日比谷シャンテ・シネにて。
「WADA Map」の扉へ
無断転載禁止 掲載:アーク編集室