Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》Neko_no_hige

演劇レポート

絶対王様「猫のヒゲのしくみ」

2000年2月1日〜2月16日

東京・下北沢駅前劇場

絶対王様ホームページ

http://village.infoweb.ne.jp/~zettai/

「僕は声を出して笑った事がない。猫はヒゲを切られるとまっすぐ歩けなくなるそうだ。僕が声を出して笑えないのは猫でいうところのヒゲを切られた状態なんだと思う。僕のヒゲは誰が切ったんだ?」

劇の冒頭、劇中にくり返されるこのセリフは、主人公:B級インディーズ映画監督 唐沢俊二の言葉。

何度も疑問形のセリフが流れると、「自分で考えろよっ」と少々のいら立ちを感じます。

自分の問題を自分で解決しようとしないこの男の周りには、他人の問題に真剣に悩む人のいい連中が集まります。巣のように温かな人に囲まれた唐沢はますます自分の殻の外側を見ようとせずに、殻の内側だけを眺めている。殻は「…誰が切ったんだ?」という言葉です。

下北沢駅前劇場は、その名の通り下北沢の駅前にあります。開場時刻を過ぎたばかりだというのに、客席は満員、既に座布団を手に通路に座るお客さんも。開演前のBGMはクラシックの交響曲。お芝居の始まる期待感とともに盛り上がるシンフォニーのせいでしょうか、お客さんのおしゃべりの声も賑やか。

「B級」としか表現のしようのない変な映画の撮影現場からお芝居が始まります。地球制服を目論むへなちょこな宇宙人たち。唐沢の撮る映画は、声を出して笑えない人なのに、コメディ映画ばかり。映画製作のスタッフたちもエキセントリックな人ばかりかと思いきや、とても「まともな」他人が見える人々です。お芝居自体もコメディ仕立てで進んでいきます。嫌みのない「お笑い」も楽しめます。

遅々として筆の進まない唐沢の脚本とキテレツなアイデアのせいで、歩数にこだわる少女、お客の入らないプラネタリウム館長(ストーカー付き)や猫を集めた猫園の園長(と猫たち)と、おかしな人間ばかりが映画作りの仲間に加わっていきます。

唐沢は、精神的には殻に閉じこもろうとするものの、コメディ映画を撮るということで、どこかで人と繋がっていたいんでしょう。4年も映画を撮っていて、1本の完成作もないのも「終わる」ことを恐れているのかも知れません。人と繋がろうとする一面と離れようとする一面との間で揺れ動く。唐沢はそれをただ「宇宙人のグレーさんのお告げ」として流されて行こうとするのだけれど、運命が殻に激突して…!。というところでお芝居は終わってしまいました。

周りの人間がどんなに盛り上げようとしても空回りする閉塞感が、上演の前後でも、わざと(?)照明を落とした真っ暗な駅前劇場とシンクロします。演出だとしたら、すごく深いんですが、どうでしょう?

「猫のヒゲのしくみ」は、これで終わり?と消化不良なままですが、このお芝居は、3月に東京グローブ座で上演される「ワニの涙の症候群」というお芝居と裏表の世界で繋がっているそうです。「ワニの涙の症候群」では、プラネタリウムを主な世界として展開していくらしい。ならば、駅前劇場の狭い空間と東京グローブ座の広い空間を象徴的に設定された作品ということになるのでしょう。唐沢の殻、プラネタリウム、グローブ座の3つのドームがどう繋がって行くのか。大掛かりな予告編を見てしまったようです。

2月12日 下北沢駅前劇場にて。


WADA Map」の扉へ

無断転載禁止 掲載:アーク編集室