Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》Nusrat
vol.84
演劇レポート
劇団トリのマーク(通称)公演
「ヌスラットは赤胡椒と大蒜を持ったまま-Nusrat with red pepper and garlic-」
2001年12月18日〜20日
東京・下北沢@ザ・スズナリ
遅刻だ、と焦ってザ・スズナリに到着すると、劇団の人が穏やかな笑顔で迎えてくれた。その笑顔で「間に合ったようだ」と少し安心。息を切らし気味に階段を登る。受付でもゆったり対応してくれて、ロビーには開場を待つ人がソファに座っている。「ああ、開場が遅れているんだ」。『トリのマーク』で遅れるなんて珍しい。なかなか開場しないことを不思議に思いつつ、息を整える。いい加減「時間を間違えたのは私?」と気付く。
やがて、時間通りに開場。スズナリの「黒」のイメージがまったく感じられない、温かな茶色の空間に四方に客席が置かれている。舞台上の奥の位置にも(通常ならば)上手、下手となる位置にも。早く到着したお陰で正面の座りやすい場所をキープ。砂漠のなかのオアシスという感じの色合い。
バタバタと焦って来たストレスをぬぐい去る暗さ。受付でもらうパンフレットを読むのも困難な明度だけど、話声は自然と密やかになり、同行者のある人たちもやがておしゃべりを止める。舞台と客席の境界線がないし、装置・装飾に使われるオブジェや照明も面白いものが多いので、会場内を歩き回る人もいる。静かな美術館を歩く時のように、足音をたてないように静かに。開演までの30分ほどの瞑想の時間。いつもの採光のいい場所や野外劇とは正反対に閉鎖的な暗さと空間だけど、とても落ち着き、安らぐ時間を演出してくれているよう。
たどたどしく無表情の話し方をする人(?)(=柳澤明子)のところへ、何か調査にきている風の人(=山中正哉)がやってくる。太陽ができるのを待っているという柳澤明子。45億年くらい待てば太陽が現れるよと、山中正哉がいう。荒唐無稽な年数のようだけど、それが「当たり前」に近い感覚で語られる。そのへんでフワフワと踊っていたり、座って待っていたりして過ごせるくらいの軽い時間のよう。仲間(=櫻井拓見)が探しにきて山中正哉が立ち去ると、いつのまにか舞台の後ろの方にいたバレバレなんだけど隠れたがる男(=出月勝彦)が登場。立ち去った彼等は自分を探していたのではないかと邪推。いつものように助詞の使い方を間違えた噛み合わない会話で自分自身が混乱していく。見事に隠れているつもりでも、ドアに貼り付いてみたり、四つん這いになって「椅子」と言ってみたり、壁になってみたり。見えているんだけど、気の毒だから知らんぷり、関わりたくないから無視、されている。
堅いしっかり者の櫻井拓見は「クマ」「クマじゃない」と繰り返して、怪しい人物を見分ける方法を柳澤明子に伝授。見分けかたの決め手はわからなかった。次に現れたのは神秘的な雰囲気を醸す女性(=丹保あずさ)。帰り道を探して歩き続け、この場所に辿り着いたという。外に出ると、帰れなくなる。もときた道をまっすぐに帰ろうとしているのだけど、いつの間にか曲がってしまって、という。でも、長い時間かけてやがては帰れるのだと。「この人は彗星なわけね」と解釈。とすると隠れたがる出月勝彦は、月とか衛星?名前から読み過ぎ?神出鬼没に現れたようで、隠れているようで、でもそこにいるのはわかってる、っていうのは、やはり月なのかしら?
三たび現れた山中正哉の柳澤明子への約束の手みやげは、「太陽はあと20億年でできる」というニュース。彗星が巡ってくる周期が何億年なんだろう。人が普通に歩いている感覚のまま、宇宙のお話(だと思うんだけど)にしてしまう、その時間や距離を計る物差しのアンバランスが絶妙。かなりアバウトに星やってますという感じ。宇宙旅行が絶対の夢ではなくなって、SF小説もスペースオペラから現実の身体へとどんどんミクロになっていて。星達の会話も軽いちょっとしたおしゃべりに仕立てられている。「クマ座」とか「クマじゃない座」とか、星座ができたりして。寝転んで神話を作っていった羊飼いたちの時代には、空が澄んでいた分、大きな星がたくさん見えていた。星はいま見上げる星と同じ(その時の光もまだ届いていない?)で、手が届きそうに近く見えたのだろうけど、その正体は羊飼い達にはまったくわからなかったのだろう。でも、月は地球の周りを回っている、とか地球は自転してるっていうのを、ホントにそう?と思わないでもない。神話のままにしておいても困ることはあんまりないんだし。
そして、待望の太陽が手みやげで柳澤明子に渡された。ポケットに入っていた太陽を、掌でそっと受取り、それを空に放つ。こういうときに照明や音楽を使わないのがいいなと思う。太陽の色や、光の強さが自分の好きなように、それぞれ見ることができる。そして初めて『トリのマーク』を見たときから、こういう印象的な無言のシーンでの柳澤明子の「型」がとても美しいのが楽しみ。
2001年12月21日
「WADA Map」の扉へ
無断転載禁止 掲載:アーク編集室