Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》Ondes Martenot
コンサート・レポート
「もっと知りたい〜あの楽器」
【オンド・マルトノ】 原田節(はらだ たかし)
ゲスト:ギター 鈴木大介
2000年3月15日
東京・府中の森芸術劇場
【オンド・マルトノ】の写真と音は、原田さんのホームページで。
http://www.246.ne.jp/~mirabeau/onde/
レクチャー&コンサート「もっと知りたい〜あの楽器」シリーズの第3回は、【オンド・マルトノ】。
身近なものを叩く、吹く、はじく、そして音が出て、何かの加減や偶然で音色や音階が見えてきて、そんなことが楽器の起源だと思う。糸が張ってあれば弾いてみるし、孔の開いた棒があれば吹いてみたくなる。どうすれば音が出る楽器なのか、形を見れば大抵のものは見当がつくし、音も予想がつく。
【オンド・マルトノ】は、鍵盤があるから、それを押さえることで音程が決まるのだろう。ところが、小さなオルガンのような7オクターブの鍵盤とスピーカーのような箱と巣箱のような箱がいくつか、ギターを改造したようなもの、それらがまとまって【オンド・マルトノ】になる。
「『もっと知りたい〜あの楽器』というタイトルのコンサートですが、『何も知らないこの楽器』でしょ?」と原田さん。 パリ国立高等音楽院オンド・マルトノ科を主席で卒業。世界各地でのソロ、国内外の主要オーケストラとの共演、などとパンフレットにあるけれど、そんな大物の日本人演奏家がいるのに、本当に何も知らない。
【オンド・マルトノ】は、電気技師で、チェロ奏者であったモリス・マルトノが発明した今世紀初頭の電波楽器。1928年に最初の演奏会が行われたとのこと。【オンド・マルトノ】とは、「マルトノの電波」という意味。鍵盤はもちろん鍵盤で、音の強弱や表情は鍵盤の左側にある引き出しのような(マウステーブルのように付属した)タッチボリュームのスイッチボタンで操作する。鍵盤の手前にある1本の弦をボトルネックで擦ってビブラートをつけたりする。そうして発信された音が六角形(巣箱みたいな)の「メタリック」、スピーカーみたいな「リバーブ」、ギターを改造したような「パルム」から流れる。「メタリック」の中には中国の銅鑼が入っている。「リバーブ」にはスプリングが絡ませてあり、「パルム」は表裏合計24本の共鳴弦の振動を拡散させる。
と、実物の楽器を見て、パンフレットで見て、説明されて、わかったようなわからないような…。だけど、白木で作られたパーツのひとつひとつが可愛らしくてきれいだし、それらがステージ上に散らばる様子はオブジェが並ぶ現代美術館のよう。
1本の弦を押さえたり揺らしたりの楽器だから、一度に出る音はひとつ。鍵盤があってもひとつ。 それは、楽器の欠点ではなく、表情の豊かさを引き出す特性だ。金属的、電子的、流体的。 最高音はガラスを引っ掻いた時の音に似て、人によっては耐え難い音かも知れない(私はぎりぎりの許容)。低音はチューバのように柔らかく、低いというより太い声。タッチボリュームを使えば音色が変化させられるのだから、一概には言えないけど、高低でまるで違う表情の音色は1台の楽器とは思えないくらい差が大きい。
原田さん作曲の『オランジュ・エ・ヴィオレ』は、ロングトーンが美しい曲。浮かんできたのはディズニー映画の「ファンタジア」。その1編「トッカータとフーガ」と「サウンドトラック君」の音楽と音を図形や波形、色で表現してみせる場面。【オンド・マルトノ】の誕生はシュールレアリズムが起きた年代と近いからだろうか。 美しい音の裏側にちょっと無気味などろどろした雰囲気が漂う。
ゲストの鈴木大介さん(ギター)がステージに。原田さん作曲『九月の旅』は、演奏するたび、毎回違う展開となり、完成しない曲だということ。ギターと【オンド・マルトノ】の音が絡み合う。イメージを持ちやすいタイトルの曲だけど、秋の風景や思い出を思い起こさせる曲ではない。楽器の音に反応し、自分が発信する「図形」が空気中を行き交う。ギターの音色がそれを受け止める。不思議なことに、よりアコースティックな音色は【オンド・マルトノ】のほう。20世紀の新しい楽器なのに、すごく原始的な部分を刺激される音。体の中には電気があるんだよなぁと変な納得をしてしまう。
楽器や楽曲がより豊かに饒舌に感情を歌う音楽もあるけれど、【オンド・マルトノ】から発せられるのは、濾過されて原始に戻った感情だと思う。 感情という以前の、炉で溶けているマグマの存在を感じる。 原田さんが再三くり返す言葉は、【オンド・マルトノ】は機械としての電子楽器や音を出すマシンではなく、あくまでも楽器であるということ。演奏者の豊かな感情や表現力があってこその楽器である、と。 お話を聞いて、原田さんが自分の楽器に抱いている愛情の大きさと深さに共感する。その愛情があるからこそ、体に響いてくる音になるんだろうな。
続く『水』は、 1937年パリ万博で【オンド・マルトノ】6台のためにオリヴィエ・メシアンが作った。セレモニーが盛り上がる最中、意図的に静かな、宗教的な諦観を表現した曲。【オンド・マルトノ】には、表側にある直接的なものの裏側に気付かせてくれる曲が似合うようだ。 自然界にあるものと感情が一体になって沸き起こるイメージは、水煙のスクリーンに浮かび上がる虹のようだ。
他に演奏された曲は、猿谷紀郎『エミッション』、池辺晋一郎『熱伝導率』。時に琵琶のような、フルートのような、水音のような、様々な音色がまっすぐに伸びている。ロングトーンを生かしたフレーズが多いけれど、ゆったりというより、エッジの効いたシャープさが際立つ。
さて、アンコール。「からだの半分は、半分以上かな、シャンソン歌手ですから!」と原田さんは鈴木さんと共にギターを弾きながら、自作の『LOVE』を歌う。「これやりたくて、今まで真面目に話してたんです。」なんて言って、本当に楽しそうに本場仕込み(?)のシャンソンを歌う。そして、【オンド・マルトノ】で『キューズ・ジァヴァ』。これは賑やかなオルゴールのようで、テンポが早くて 、「1本の弦しかないから、同時に2つの音は出せない」と何度も言ってきたことが、まるで嘘のよう。今までのお話はなんだったんだろうと呆気にとられる…。「1本の弦しかないから…」は本当だけど、だから、「ひとつの音を長く伸ばさなければならない」のではなく、例えばパソコンのキーボードを10本指で早く叩いているのと同じことで…、理屈はそうなんだけど。鍵盤がありながら、ひとつの音という【オンド・マルトノ】の性格に神秘的なものを感じていた私は「あ、あれ…?」。私の勝手な思い込みなんだけど。最後の最後で鮮やかに裏切ってくれて「こりゃ、1本とられたな」と笑っちゃうくらい楽しく拍手。
【オンド・マルトノ】の音は聴いたことがない。と思っていたけれど、TV-CMや映画音楽など、知らず知らず耳にしていたらしい。場面により、様々な音色であらわれるから、コンピューターで合成した音とか、別の楽器と思っていただけのようだ。印象的な、感応的な場面で使われていることが多いので、見れば「ああ、この音!」と納得するかもしれないし、音だけが耳に残っているということもあるかも知れない。私もこの日、【オンド・マルトノ】の音を聴いて、思い当たった映画もいくつかある。原田さんのホームページにはそんな情報も載っているので、ご参考に。
2000年3月15日
東京・府中の森芸術劇場にて。
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