コンサート・レポート
アサヒビール音楽講座 レクチャーコンサートシリーズ 旬を聴く-注文の多い音楽会-
第2回 旬のレシピ
1999年11月30日 Asahi スクエアA
詳細は、アーツ・カレンダー「アサヒビール音楽講座レクチャーコンサート」をご参照ください。
9月の第1回「素材あれこれ」に続く今回の音楽講座、出演は松原勝也(ヴァイオリン)、高橋悠治(ピアノ)、渡辺香津美(ギター)の3人。
音楽講座のナビゲーター池田逸子さんの言葉をパンフレットから拾うと「前回は3つの楽器とそれぞれの作品が素材であったが、今回はヴァイオリンとその作品がメイン素材である。副素材(立場はお互いに対等だが)はピアノとギター。そこから料理人である演奏者に旬の味覚を引き出してもらおうというねらいである。さらに松原勝也を素材にして、高橋悠治と渡辺香津美にそれぞれ違った味を引き出してもらおうという密かな狙いもある」とのこと。
1曲目は、ヴァイオリンとピアノで「モーツァルト:ヴァイオリン・ソナタ ホ短調 第1、第2楽章」
ヴァイオリンよりも高橋悠治さんのピアノが印象的。なんだかちょっと重く、くぐもった感じの音で、バロック音楽のように聴こえる。短調だからというばかりでなく、モーツァルトのネアカさが薄れて新鮮。雲のなかを松原さんのヴァイオリンが通り抜ける。きっぱりとしたモーツァルトもあるんだなぁ。
2曲目、高橋さん作曲の「ル・ドゥーブル・ドゥ・パガニーニ」をヴァイオリンとピアノで。前回の音楽講座でアコーディオンの魅力を教えてくれた御喜美江さんのためにフルートとアコーディオン版が作られ、アコーディオンをピアノやシンセサイザーにアレンジすることもできる、と。その後に作られたヴァイオリンとアコーディオン版を高橋さん自身がピアノを弾く。パガニーニの「無伴奏ヴァイオリンのためのカプリス」のコラージュ。発着点はおなじで、進む方向を変えた2路線の世界1周旅行記という感じ。「ミス?」と思うくらい噛み合わないフレーズの会話、気持ち悪さが楽しさに変わってくる不思議な曲。楽譜を見ていても演奏しにくそうな曲を、松原さんは楽譜より、高橋さんのピアノの音を受けて演奏しているようだ。
難解な曲、だけど拍手をしながら清涼感が溢れてくる。1曲目、2曲目とも濃厚でありながら、後味がさっぱりしている。
高橋さんに変わってジャズ・ギターの渡辺香津美さんが登場。
3曲目はジャズ・ヴァイオリンの巨匠ステファン・グラッペリ作曲の「I've found a new baby 」おそらくジャズ・ギターのジャンゴ・ラインハルトとのデュオで演奏されたこの曲。もう、座って畏まって聴いているのがつらい!1、2曲目はずしんと響くような重さ、深さがなんとも心地よかったのだけど、走り回るような軽やかさに「ジャズ・ヴァイオリンもいいねぇ」とあっけなく気分が変わる。手拍子ではなく床を蹴る踵の音でリズムを取りたい。と、渡辺さんのものらしき足音が響いてくる。南欧の夜の街角にいるみたい(映画でしか知らないけど)。グラッペリとジャンゴのCDは持ってたっけ、久し振りに聴いてみよう。
4曲目、渡辺さん作曲「ネコヴィタンX」斉藤ネコカルテットのために書かれた、元気が出るという効能が期待される曲。やっぱり南欧の雰囲気がある。ニャーニャーと猫の鳴き声にも聞こえるヴァイオリンの音とフラメンコ・ギターのようなギター・ソロだけど、哀愁を帯びていないのがいい感じ。
今回の音楽講座で披露されたのはこの4曲だけ。演奏者と観客の質疑応答、演奏者と池田逸子さんのトークに多くの時間が充てられている。
続けて4曲を演奏した松原さんにマイクが向けられる。息が上がっていて「取り組みを終えた関取にインタビューしているみたい」と池田さん。「取り組みです。」と松原さんが返す。高橋さんと、渡辺さんと、と続けての演奏は松原さんにとっては異種格闘技の様なものだそう。私は、曲によって、合わせる楽器によって表情が変わるヴァイオリンの音色をただ、ただ楽しんでいたけど、「そうか、ライブなんだ!」と気が付く。4曲を生で聴いたということ、急に新鮮に感じ、貴重なことだと思う。この素材の組み合わせで、このメニュー(曲目)は、二度と聴くことができないかも。
浮かれながら、休憩時間を過ごす。この休憩時間中に後半の演奏者と観客の質疑応答用に質問を提出できるようになっている。質問は多くは集まらなかったようだけど、観客はそれぞれの演奏者の場数を踏んだファンが多いようで、質問も「大人」な感じ。
1曲目のモーツァルトに関して高橋さんに「モーツァルトなら、フレーズ感を楽しみたいなと思ったんですが、それが感じられませんでしたが?」。私がモーツァルトっぽくないと思ったことは「フレーズ感がない」と表現するべきことだったようです。高橋さん答えて曰く「フレーズ感を楽しみたいと思ったら、そういう演奏をする人を聴きにいけばいいんです。」
前半のやり取りからも、高橋さんは答えをはぐらかしたり、醒めたような話し方で気難しい芸術家という感じ。そして松原さんがメイン素材と思っていたけれど、質問やお話がどうしても高橋さんに向かってしまう。「ドイツの音楽をドイツ人がやるようにやったってしょうがないでしょう」「来年がバッハ没後250年というとそれが流行ったりするんですけど、うんざり」「ドイツの音楽が普遍的だなんてことはないんですよ」そんな聞く人によっては怒ってしまうような発言もあったり。悪口にもとれるようなことだけど、高橋さんの声を聞いていると「ごもっとも」と思えてしまう。松原さんと渡辺さんのグラッペリにも「私はああいう忙しい思いはしたくない」なんて言ったり。質問を変化球で返されることが楽しい。それは、高橋さんが演奏したモーツァルトが変化球だったからだ。とても新鮮で、モーツァルトの曲の気付かなかった一面を感じさせてくれたからだろう。悪意を持ってピアノに向かっていたら、あんなに印象的な音になるはずがない。
質疑応答が終わると先ほどの、ヴァイオリン&ピアノから1曲、ヴァイオリン&ギターから1曲をもう一度演奏してくれる。選ぶのは観客の挙手。ヴァイオリン&ピアノは「ル・ドゥーブル・ドゥ・パガニーニ」。同数で決着の付かなかったヴァイオリン&ギターは、池田さんの1票でグラッペリに決まった。
二度と聴けないと思った「ル・ドゥーブル・ドゥ・パガニーニ」をもう一度聴ける。やっぱり噛み合わない会話なんだけど、なんだか気分のいい曲。高橋さんのお話がこんな感じだな。おためごかしでない忠告に耳が痛いけど、誠意はいずれ通じる。
take1よりスピード感は薄れたけど、一晩寝かせた煮込み料理みたいに、より濃厚になったグラッペリ。「忙しい思いはしたくない」なんて言っていたけど、すごくノって聴いている高橋さんが私からちょうど見えるところに。
デザートは、3人の演奏家によるインプロビゼーション。デザートというよりプレゼント。当日に決まったプログラムだとか。はじめはチューニングをしているかのように、それぞれが好き勝手(なよう)な方向から音を出していく。それが出会い、細胞分裂をくり返して、音楽と進化していく。ヴァイオリンの音、ピアノの音、ギターの音、塊になって(アサヒビールのビルのトーチのように!)ぶーんと飛んでいるようだったのが、ひとつひとつの楽器の音が際立って聴こえてきた。あ、雅楽?ヴァイオリンが笛、ピアノが琵琶、ギターが琴、そんな感じがする。メロディーとリズムの関係がいわゆる西洋音楽とは違う要素を持っているようだ。勝手に雅楽だと思い込んでしまったのだけど、平均律で演奏される雅楽(?)もすっきりしておもしろい。
1999年11月30日
Asahi スクエアA にて。
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