Arts Calendar/Art's Report site/《WADA Map》Scandinavian 2000 May

ライブ・レポート

森泰人スカンジナビアン・コネクション

2000年5月27日
南青山Body&Soul

ベース:森泰人
ピアノ:ラ−シュ・ジャンソン
ドラム:アンダーシュ・シェルベリ

ライブの始まるだいぶ前からお店は満員。おしゃべり、食器のカチャカチャする音、ビル・エヴァンスの「Waltz for Debby」の雰囲気。お客さんの旺盛な食欲、パワフルな演奏を熱望するサインになっているみたい。

1年前に初めて聴いたこのトリオ、初夏の風が吹き抜けるような端正な印象だった。同じメンバーで、まったく違うライブを聴かせてくれた。

緑に囲まれて、森の奥深くに行くような印象のエントランスが雰囲気を盛り上げる。亜熱帯の酔ってしまうほど濃い空気に満たされる店内。

今回のライブは、ラーシュ・ジャンソンの新アルバム「hope」を中心に展開された。このアルバムは、いいお天気のジャズ。

開け放した窓、カーテンを揺らす風に吹かれながら、ぼんやり聴いていたいジャズ。ところが、ライブはメイ・ストーム。

祈りのために、対話のために生まれた原始の音楽を思わせる。

森さんがドラムと言わずに「アンダーシュの太鼓」と言う。それがぴったりの鼓舞するように軽やかなアンダーシュ・シェルベリのドラム。

和太鼓を連想してしまう。流れるように、うねるように、メロディーを歌うドラム。南の島のスコールみたい。隙間なく溢れてくる音は、重さをまったく感じさせない。お客さんの拍手も熱い!

時折、悪戯を仕掛けた子供みたいに、ワクワクしつつ、何食わぬ顔で「技」を披露。ごくごくシンプルなドラムセットで、シンセサイザーみたいな表情をつけてしまう。

スティックの根本でシンバルのエッジを(お鈴を叩くみたいに)コツンと叩く。シンバルの表面を擦ってスチールドラムのような、ひゅうんという音を出す。

こんなに楽しくてお祭り気分のドラムを聴かせてくれる人だったんだ。去年は、曲を正確に運ぶ包容力ばかりを聴いていたけれど。

どんなにお茶目なことをやっても、質の高い音楽性が失われないラーシュ・ジャンソンのピアノ。足元にはいろんなものを用意して、ゴムマスクを着けてみたり、「おんぎゃあ、おんぎゃあ」と言うおもちゃを鳴らしてみたり。

ひと息にふわぁーっと飛び出す、シャボン玉のような、旋律。クルクル回りながら、広がって行き、はじけた粒もきらめきを保ったまま、空気に溶け込んで行く。

目には、何も見えていないけど「きれいな風景だ」と思う。美しい、というのは、ただ端正で、形が整っているだけのものではないんだ。有無を言わせずに魂を引き寄せる大きな力があるものなのだな、と思う。その源は何だろう?ラーシュ・ジャンソンの指先が鍵盤に触れる瞬間に生まれる何か。

アルバム「hope」がグラデーションに並んだ色鉛筆だとすれば、ライブは、その色鉛筆で描いたカラフルな落書き。スケッチブックでは収まりきらない、大きな空間に思いっきり自由に描いた絵。

ピアノとデュオで、バラードが演奏されたとき、森さんのベースは鉛筆画みたいだ、と思った。突然の「鉛筆画」というイメージに自分でも戸惑ってしまうけど。

豊かな色彩をモノクロームで描く。その鮮やかさは失われることなく、逆に陰影を伴って、奥行きも増す。ラーシュ・ジャンソンの曲をモノクロームで描くことで、輪郭が際立ち、表情が明るく浮かび上がってくるような気がする。

深く沈むようなウッドベースの音。ウッドベースの指先が、聴くものを手繰るように引き込む。目を閉じて聴く。眠りに入る一歩前の心地よさ。と、ドラムではないリズムの音。森さんが足でリズムをとっている。それを聴いて「ライブだ」と思う一方で、また悲しくなってしまう。また何ヵ月も待たなければ、森さんたちのジャズが聴けないんだというもどかしさ。

台風なみに荒れるかも、というこの日の天候に真っ向からぶつかるような熱くてパワフルなジャズ。北欧というと、ついフィヨルドとか白夜とか、静かなものをイメージする。このライブは、荒くれのヴァイキングたちの宴。興に乗って生まれてきた音楽は、こんな感じかなと。

2000年5月27日
南青山BODY&SOULにて。


WADA Map」の扉へ

無断転載禁止 掲載:アーク編集室