Arts Calendar/Art's Report site/《YAMAsan no Live_bibouroku》OKAMOTO*SOPRANISTA

vol.68
'03. 4.24.     
岡本知高ソプラニスタ・リサイタル追加公演
会場:高知市文化プラザーかるぽーと

 高知市文化プラザかるぽーとの開館一周年記念事業のひとつである、地元高知県の宿毛出身のソプラニスタ(男性ソプラノ)岡本知高のリサイタルは、いろいろな意味で心動かされ、記憶に残るコンサートだった。

 歌唱として最も充実していたのは、プログラムの最後で歌った「歌に生き、恋に生き」(プッチーニ『トスカ』より)だったろうと思う。悲痛でドラマチックな歌いぶりに魂が宿っていて感動的だった。しかし、僕が最も心を動かされたのは、岡本君には特別なゆかりがある歌と紹介された「小さな木の実」(ビゼー)と、声優としての柳葉敏郎と今井美樹の声の響きや調子がとてもよくて、僕のなかでも妙に記憶に残っている映画『おもひでぽろぽろ』よりと紹介された「愛は花、君はその種子」(A.Mcブルーム)の実に心に泌みる歌唱ぶりと、それを歌ってからの「さようなら、故郷の家よ」(カタラーニ『ワリー』より)の、それまでと見違えるほどに豊かで思わず聴き惚れてしまった歌唱ぶりだった。

 実は、僕は第一部での歌を聴きながら、その柔らかく妙なる響きの声質に随時魅了されながらも、声の出方にちょっと窮屈なきつさを感じるところがあって、表情豊かには歌っているものの、歌唱そのものに聴き惚れるということができないでいた。第一部最後の「誰も寝てはならぬ」(プッチーニ『トゥーランドット』より)を聴いても、凄いもんだなぁと妙に醒めた感想しか呼び起こされなかった。それよりは、女声としか思えない男性ソプラノの声のなかに男声の何かを捉えようとしたり、音楽案内人として進行係のMCを務めていた神崎氏との師弟関係に思いを巡らせて感慨に耽ったり、歌そのものとは異なるところでコンサートを楽しんでいる部分があって、裏を返せば、そうやって楽しまないではいられない程度にしか、歌そのものには魅了されていなかったということになる。第二部になっても、「ミュージック・オブ・ザ・ナイト」(ウェーバー『オペラ座の怪人』より)では、むしろ第一部では耳にすることのなかった変な出方の声まであって、今日は、かなりコンディションが悪いのかもしれないと、ちょっと気の毒な気さえしてき始めていた。

 ところが次に歌った「小さな木の実」がとてもよかった。シンプルで素朴な小品で、声域に何ら無理のいく歌ではない。特別なゆかりが何なのかは知らないけれど、随分と歌い込んできているのだろう。優しく艶やかに、本当に泌み入るような歌声で、続く「愛は花、君はその種子」とともに、今宵聴いたなかで、初めて歌に心が宿ったように感じられた。第一部での「翼をください」のような格別のエピソード紹介とともにそれなりの熱唱でもって聴かされても届かなかったものに、初めて触れたような気がした。そして、その後の「さようなら、故郷の家よ」の見事な歌いぶりに、僕は改めて、生身の喉が頼りの歌というものの、器楽演奏以上のデリケートさに思いが及んだ。岡本知高自身もコンディションの悪さが気になっていたのではなかろうか。そして、それに気を取られて、本来の歌いぶりができないでいたのではなかろうか。コンディションではなく歌のほうに引き戻してくれたのが「小さな木の実」と「愛は花、君はその種子」だったように思えるくらい、それから後の歌が生き生きとしてきたような気がした。「川の流れのように」は、スケール感や年月を重ねた深みの点で美空ひばりには及ばないながら、この歌への愛着が伝わってくるような歌いぶりで気持ちがよかったし、プログラム最後の歌は、最も充実した歌唱だったから、見事な立ち直りだ。何だか全体の流れがとてもドラマチックに感じられて、記憶に残る演奏会となった。

 アンコール曲は、『マイ・フェア・レディ』からの「一晩中踊り明かしたい」と「私のお父さん」(プッチーニ『ジャンニ・スキッキ』より)だったが、どちらにも随分と寛いだ伸びやかさが感じられるようになって気持ちがいい。ミュージカルからの歌は、『オペラ座の怪人』でもそうだったように、少々張り出しに乏しい気もしたが、立直ったように僕が感じてからは、どの歌を歌っていても、歌が好きで仕方がないことが否応なく伝わってきて、聴いている側がつくづく歌っていいもんだなぁという気持ちになってくる。
 三曲目となる二度目のアンコールのときに、出身県の県都で行うコンサートは、いつも以上に緊張したと漏らしていたが、本人にとっても忘れがたい公演になったのではないだろうか。なにせ、田舎の小学校の20人の生徒の前で歌うところからスタートして、千人規模のコンサートホールが満席になるどころか、こうして一週間置いての追加公演を決める形での凱旋公演となったのだから。

 実は、僕は岡本知高の公演に足を運ぶ予定をしていなかったのだが、音楽の好きな友人が「凄い歌い手がいる、ぜひ聴いてほしい。」とチケットまで用意して誘ってくれたお陰で聴くことができた。どの分野であれ、持つべきはリライアブルな友人だと改めて思った。


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