Arts Calendar/Art's Report site/《YAMAsan no Live_bibouroku》Theatre Lab


vol.120

'07. 8.22. 
第6回詩のボクシング高知大会
高知市文化プラザ小ホール

 高知新聞学芸部の企画するアートウォッチャーとして高知市文化振興事業団の大家
氏に招かれ、初めて“詩のボクシング”なるものを観戦してきた。チラシによれば、
ボクシングに見立てたリング上で、2人の朗読者(朗読ボクサー)が、自作の詩また
は独自の視点で作品化したものを交互に朗読し、どれだけ観客を惹きつけたかを競い
合い、複数の審判が判定を下していく『ことばのスポーツ』で、「詩」だけでなく、
散文、演劇の台本、ショートコント、ことばあそび、手紙、日記、歌詞など、自分で
書いた作品なら何でもOKというのが、詩のボクシングなのだそうだ。

 楠かつのり氏が始めて今年で10年になる催しだそうで、高知大会の開催は6年目
なのだが、今大会は、高校生から70歳の高齢者まで男女それぞれ8名づつによる
16人がリングに上がって3分間のパフォーマンスを行い、トーナメント戦を展開し
た。
 リングアナからの選手紹介でリングネームと共に年齢が発表されるのは他地区には
みられないことらしいが、リングアナである以上、重量に替わって年齢による数字
コールが入るのは、リングアナウンスのスタイルとしては、むしろ気が利いているよ
うに思う。

 高知大会チャンピオンの座に輝いたのは、珊瑚職人をしているとの30代と思しき
ゴルゴンゾーラ森選手。最後の審査員講評のなかで、高知演劇ネットワーク演会・事
務局長の岡村実記氏が「身近にいそうで、滅多にいなさそうな」とコメントしていた
ように、親しみやすさと風変わりさがともに際立つ独特の個性を背伸びの全くない肉
声として生活実感そのままに語りかけた表現スタイルが巧く活かされた“キャラ勝
ち”だったように思う。決勝で敗れたのは、過去に複数回の優勝歴があると紹介され
た前回の覇者高瀬草ノ介選手43歳。個々の作品も非常に技巧的だが、トーナメント
戦を勝ち抜く戦略においても際立った試合巧者ぶりを印象づけてくれた。決勝では、
その場で課題を与えられる「即興詩対決」を含む2ラウンドが行われるルールで、森
選手が『梅干し』との即興題に対し、困惑しながらも構成に配慮した対応をして、ス
トレートに梅干し自体について語り始めることなく、オチ的なものも構えた語りをし
たのに対し、高瀬選手は、即興題『流れ星』に対して、いきなり流れ星を見たことか
ら入ってしまうネタなし状態で臨んでしまい、あえなく敗れたわけだが、ジャンケン
で勝ちながら後攻を選んだことが敗因のひとつでもあるように感じた。

 決勝に勝ち上るまで2回戦を除き、高瀬選手はずっと後攻の赤コーナーに立ってい
たのだが、予め準備した作品を発表するトーナメント戦では、後攻が圧倒的に有利だ
という気がする。先攻の出来映えによって持ち札のいずれで勝負するかを決められる
うえに、同程度の出来映えなら聴いたばかりの作品のほうが強い印象を残しやすいこ
とが審査員にも作用するように思うからだ。ちなみに1回戦8試合のうち、先攻が
勝ったのは2試合のみで4−3の接戦となった2試合はいずれも後攻が勝っている。

高瀬選手はそれを意識して後攻を選んだのではないかと思うが、即興詩対決では持ち
札選択の余地はないし、先攻者がなんとかこなしてしまったときのプレッシャーは後
攻者に倍加して襲ってくることになる。今までの高知大会ではそのような経験をした
ことがなかったのかもしれないが、過去に優勝経験もある高瀬選手の今回の即興詩対
決での惨敗ぶりを目の当たりにすると、そんなことを思わずにはいられなかった。

 高瀬選手の試合巧者ぶりは、優勝した森選手の作品がトーナメントを勝ち上がるに
連れ、出来映えが弱まっていき、最も強くいい作品だったのが1回戦の“横綱”にま
つわるものだったのに対し、高瀬選手の場合は、準決勝で繰り出した“回転倒し”の
作品が最も出来映えがよかったことにも現れていたように思う。ここでこの作品を打
ち出せなければ、準決勝の対戦相手だった女子高生ござかっちゃん選手15歳に敗れ
ていたような気がする。持ち札としては、実はイチバン弱かったように思える“カ
バ”を材にした童謡風のパフォーマンスを決勝に持ってきていたのは、決勝では2ラ
ウンド目の即興詩対決のほうが印象度が強いことを知っていてのことだったように思
うし、トーナメントを勝ち上がるためには、もちろん自分のスタイルは必要だが、ワ
ンパターンに陥ってはいけないことを承知している唯一の選手だったように感じた。

1回戦での社会的なテーマ性を備えた“騒々しい音”について渋く読み上げた後、2
回戦では“サバ折り”を材におかしみを添えたことばあそびに転じ、準決勝でその両
面を備えた作品を披露して、決勝では遂に歌い始めるという変化・転調を意識した戦
略を構築していたように思う。それはちょうど、1回戦での女性同士の対戦のなか
で、少々発語が悪いにもかかわらず派手なアクションと息せき切りながら喘ぐように
して閉所恐怖症の切迫感を演じ、詩の内容的にはむしろ対戦相手ののみち選手38歳
のほうが上回っていたように思われるのに打ち破ったものの、“部屋の片づけが出来
ない女”“女社会の処世の難儀”を材にした2回戦も3回戦も、材は変われど同じス
タイルの繰り返しで急速に魅力を減じていったマドモアゼル愛子選手の例や、高知ア
ピール隊70歳男性の“ハルウララ”を材にした朗々たる歌と踊りを交えた作品の異
彩が、2回戦での“どろんこ祭り”に材を得た作品で忽ち精彩を欠いて陳腐に変じて
しまう落差を露呈させていた例とは対照的な、高瀬選手の高度な知略だったような気
がする。

 今大会で最も注目を集めた存在は、1回戦で優勝者のゴルゴンゾーラ森選手に1−
6で敗れながら、観客投票で敗者復活戦に再チャレンジして準決勝まで勝ち上がり、
徳島で開催される「高校生詩のボクシング全国大会」への出場推薦を手に入れた女子
高生ござかっちゃんだったように思う。声が明瞭な読み上手で、巧みに声色を変えた
台詞入りの、身近な存在に材を取った作品群は、1回戦の“がさつで感じ悪いと思っ
ていた男の子への恋心の芽生え”にしても、2回戦の“ぱっとしないように見えて素
敵な生物教師から学び取った命の大切さへの思い”にしても、準決勝での“ひとり
ぼっちの孤独に苛まれていたなかで気づいた友だちの存在”にしても、若々しい清涼
感があって魅力的だった。それでも準決勝で高瀬選手に敗れたのは、やはりいずれの
作品もが、声色を変えた台詞入りに特徴のある同工異曲の作品に思えるような印象を
与えたからだという気がする。最初は、読みの巧さに驚き、重ねられることで感心も
深まったものが次第に技巧が勝ちすぎているような倦みを聴き手に与えるようになっ
た気がしなくもない。準決勝で2−5で敗れたことには、そういう側面があったよう
に思う。優勝したゴルゴンゾーラ森選手の強みは、同様の同工異曲的な弱みを持ちな
がら、しかも個々の作品力では次第に出来映えを弱まらせながらも、それをも凌ぐ
キャラ立ちを備えていたことだったように思う。

 僕が声のよさに魅せられたのは、1回戦の最初にリングに上がった冷却ファン選
手。初出場の14歳と紹介されたように思うが、中学生とは思えない男子で、さりげ
ない日常の一コマを瑞々しく言葉にして2回戦に進んだものの、敗者復活戦を潜り抜
けてきたござかっちゃんにあえなく敗退。もう一人は、16歳の女子高校生プチトマ
ト選手。声のよさというよりは読み方なのかもしれないが、素直で素朴な読みのなか
に、巧まざる可愛らしさが思わず顔を覗かせるのが効果的で詩の内容ともマッチして
いたが、技巧に秀でたござかっちゃんに敗者復活戦での女子高生対決にて敗れた。

 個別の作品として僕が気に入ったものは、全て1回戦で披露されたものばかりだっ
た。なかでも前ノ浜選手48歳男性の“学生時分のアルバイトで出会った出征体験の
あるおっさん労働者への回想”を詠った作品は、僕と同世代ゆえにか大いに響いてき
た。ゴルゴンゾーラ森選手の珊瑚職人としての自負と喜びそして自戒を時宜に適った
朝青龍ネタで笑いも取りつつ聞かせた作品もとてもよかった。そして、30代女性と
思しきなかちゃん選手の“女の顔と化粧”に材を得て人のアイデンティティ問題の根
本に触れるようなテーマ性を備えた作品にも大いに魅了された。作品そのものもさる
ことながら、表現力としての演技も達者で、続く2回戦での作品に大きな期待を持た
せたのだが、“妊娠”に材を得た作品は1回戦の作品と同列の主題にありながら、言
葉・切り口・パフォーマンス総ての面で1回戦の作品のほうが優っていたものだか
ら、期待を集めたことが仇になっていた気がする。このあたりが、作品の出し方の実
に難しいところだという気がするが、もし仮に、なかちゃん選手が2回戦でのゴルゴ
ンゾーラ森選手との対戦に1回戦の作品を持ってきていたら、ござかっちゃんを6−
1で破る作品を既に1回戦で消費していたゴルゴンゾーラ森選手の“特急フェリーの
なかでの振舞われ上手”を題材にした作品に対しては、勝利を収めていたのではない
か。決勝、準決勝をフルマークで完勝し、1回戦でも6−1のスコアで勝っているゴ
ルゴンゾーラ森選手が、唯一スリリングな4−3で辛勝した相手がなかちゃん選手
だったわけだが、なかちゃん選手の1回戦での作品と2回戦での作品の出来映えの差
を思うと、間違いのないことのような気がする。

 それにしても、最初に16名全員がリングに上がってリングアナの紹介を受けてい
たときは、全員が揃いも揃って声も小さく大人しそうな方ばかりだったのに、パフォ
ーマンスを始めると豹変するのだから、人というのは面白いものだ。3時間もの時間
をいささかも長いとも思わせず楽しませてもらった。だが、一般客だと楽しいけれど
も、審査員をすると何とも大変だろうなとも思った。ルール解説によれば、審査に係
る「評価の基準は特に定めない」とある。時間内に収められなかったことのマイナス
はどの程度の評価なのか、詩の内容面とパフォーマンス面とではどちらを重視するの
か、ウケ勝負みたいな芸能的側面を重視するのか、審査員それぞれに任せると言われ
ても随分と困るだろうなぁと、思いのほか見知った顔ぶれの占めている審査員席を眺
めていた。


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