Arts Calendar/Art's Report site/《YAMAsan no Live_bibouroku》5.31


vol.145

'09. 5.31.
演劇集団STH 『浦島さんとカチカチ山』(演劇祭 KOCHI 2009 共通チケット対象作品1)
グラフィティ蛸蔵

 太宰治の『お伽草紙』は、確か十代の頃に読んだ気がするのだが、カチカチ山の話の記憶しか残ってい
なくて、『浦島さん』を観て、そういえば、と思い出したのだが、当時、少し頭でっかちな話のように思
えた『浦島さん』のほうが、話としても言葉としても奥行きがあって面白く思えたのが新鮮だった。だが、
『カチカチ山』の切り口の鮮やかさは、十代には実に鮮烈で、強く印象に残るのも無理ないことが、この
歳になって観てもよく判る。

 『カチカチ山』での波多野拓有が狸として這って現れたときの動作には、なかなか惹きつけるものがあ
って期待させられたのだが、その後もそれが裏切られることのない充実した舞台だったように思う。少女
たる兎(阿野田由紀)の残酷さと恐さがきちんと表現されているに留まらず、少女が苛立ち嫌うのも無理
からぬ中年男の狸ぶりがきちんと演じられていて、決して愚鈍な善良さとしては表現されていなかったと
ころに、かなり感心した。この作品は、7月の高知市民劇場の例会で劇団プークによる人形劇での公演が
予定されている。今回の公演を観て、兎の毒と狸の気味悪さとが人形劇でどこまで表現されているか楽し
みになってきたのだが、おそらく今日の芝居ほどの成果はあげていないのではないだろうか。

 続く『浦島さん』で印象に残った“上品なる聖諦”というものに対しても、きちんと陰影というものが
宿っていて、太宰の流石を感じるとともに、原作の深みを殺さない手堅い演出ぶりに感心した。視覚的
には、浦島太郎(井上琢己)が亀(鍋島恵那)の背に乗って海底深く潜っていく場面の見せ方と所作が鮮
やかだった。列車のなかで少女が太宰の『お伽草紙』を読んでいる導入から『カチカチ山』に入り、少女
が車中に落としていった本を拾い上げた青年が『浦島さん』を読み始める形にして二つの話を繋いだ演出
共々、なかなかこなれているように感じた。これくらいの舞台を見せてくれると文句ないと言えるだけの
観応えがあったように思う。小劇場というも憚られる極小劇場の蛸蔵ではあるが、満席になった空間の濃
密さが客席と一体になって持続した好ステージだった気がする。

 改めて太宰治を見直す気持ちにさせてくれた今回の公演だったが、つい先日、ふらっと立ち寄った本屋
で太宰の『人間失格』が新刊の単行本として上梓されているのを見て驚いた。文庫本の表紙をイラスト漫
画にしたことで現代の若者に受け入れられ、ベストセラーになったという話を数年前に新聞記事で読んだ
覚えはあるが、単行本での刊行にまで支持が及んでいるとは知らなかった。漱石・鴎外でさえ適わぬ偉業
だと思った。


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